内容説明
“夢魔”など奇怪な幻想絵画で知られるフューズリはじつは主流派アカデミシャンであり、美術史と古典文学に精通する教養人だった。イギリスロマン主義の源流となり、さらに後代の美術家に深い影響を与えた彼の芸術思想と物語絵画の制作手法を、その着想源となった近代観相学や当時の演劇・見世物など視覚文化の反映と共に明らかにする。魔術的画家の人体造形論。
目次
第1章 物語絵画と十八世紀の美術市場(ロイヤル・アカデミーの年次展覧会;ボイデルのシェイクスピア・ギャラリー ほか)
第2章 物語とキャラクターの理論(「詩的模倣」芸術論;身体は「建造」される ほか)
第3章 「劇場は最高の学校」―俳優の演技と物語絵画の「行為」(演劇愛好家フューズリ;ギャリックによる『マクベス』の「復元」 ほか)
第4章 物語とキャラクターの造形(舞台空間と絵画の動線;舞台の特殊効果とキアロスクーロ)
第5章 次世代に継承されたフューズリの画法(次世代の画家に対する『画法講義』の影響;ウィリアム・ブレイクの観相学 ほか)
著者等紹介
松下哲也[マツシタテツヤ]
1981年、大阪府生まれ。國學院大學大学院文学研究科史学専攻美学美術史コース博士課程後期単位取得満期退学。博士(歴史学)。専攻は英ロマン主義絵画を中心とする近代美術史。美術史学会、美学会会員。現在、國學院大學文学部兼任講師(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
蛸
9
フューズリの絵画の制作方法を同時代の視覚文化(観相学や舞台など)を参照して読み解き、フューズリの美術史上の位置付けを更新している一冊。作品の読解によって新しく切り拓かれた美術史のパースペクティブはとても広大で、著者の今後の研究が気になるところ。絵画と非絵画の違いに関心があったという「あとがき」の文章に記されている著者の言葉を読んで納得。確かにこの本の根底にはそのような著者の関心がありありと感じられる。 極めてリーダブルな文章で射程の長いスリリングな議論が展開される一冊。これほど面白い美術本も少ないだろう。2024/04/16
monado
3
現代キャラクター論を応用しながら、文学者でもあったフューズリの画法を読み解く。それは一枚絵において背景の物語を伝えるために、ラファータ『観相学論』の理論を用いてキャラクターを描き分けるというもの。 また悪名名高い顔面角の理論も、優生学に基づくものではなく、あくまで書き分けのための理論であることなどにも言及される。 観相学と現代マンガ・キャラクター研究をつなげる補助線として、わかりやすく刺激的な一冊。2018/05/05
植岡藍
2
フューズリの物語絵画の背景としてある観相学を軸に、絵画と現代におけるマンガ、イラストレーションなどのキャラクター表現を繋ぐ。フューズリという名前にピンと来ない人も「夢魔」の作者というとわかるかもしれない。最初から最後まで面白いが、特に絵画の中における時間表現などの考察はそのまま現代のマンガに通じるように感じられて面白かった。筆者の他の著作も楽しみにしたい。2022/06/04
ikeikeikea
1
国立西洋美術館で最も印象に残った作品がこの本の表紙となっている「グイド・カヴァルカンティの亡霊に出会うテオドーレ」である人は多いであろう(デカイし)。その作者でありまた「夢魔」の作者でもあるヘンリー・フューズリの画法について書かれた一冊。フューズリとブレイク、ラファエル前派の関係性についても書かれているので物語画好きにオススメ。下記URLの著者のインタビューで興味を持った人は迷わず読むべきhttps://eonet.jp/zing/articles/_4101716.html 2018/04/08