内容説明
社交界のスノビズムを嫌悪し、片田舎の城館に若くして隠棲するトニィ。平穏な日々をおくる彼はしかし、美しい妻の心が次第に自分から離れて行くのを知らなかった…。息子の死をきっかけに知る妻の情事、館を去る彼女、離婚の手続きのために今度は彼が演じる浮気の芝居―物語は急展開し、トニィはアマゾンの奥地へ向う探検行へ。そして熱病にかかり死線をさまよった彼を待ち受けていたのは、奇怪なディケンズ狂の老人だった…。「美しい郷愁の世界」と醜い現実とのはざまで、心ならずも悲しきファルスを演じるはめになる主人公に、個性ゆたかな脇役たちを配し、緻密な文体で描いた、イーヴリン・ウォーの最高傑作を、清新な翻訳でおくる。アメリカの雑誌連載時の「もうひとつの結末」を付した。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
245
自分の管轄下にあったはずのゴシック建築のマナーハウスでの日常。昨日と今日と明日は何も変わることなく営まれていくはずであった。しかし、それは所詮はトニィの幻想でしかなかったことの不条理。小説的な前半から、一転して後半は物語的な世界に移行するが、周りのすべてが未知の世界であり、トニィの裁量は全く及ばない。ここではたまさかの解放であるはずが、捉われとなる閉塞の不条理。妻のブレンダは、あまりにも身勝手で無反省。また、最初は主人公かと思われたビーヴァは無個性で魅力がない。小説全体のリアリティが強固にこれらを支える。2015/08/06
まふ
117
著者の代表作とされる造りのしっかりしたコメディ。オクスフォード大の卒業生ながら無為徒食のジョン・ビーヴァに恋心を持った大資産家の妻ブレンダが、一粒種の息子ジョン・アンドルーの落馬事故による死亡の際に夫のトニィに離婚を要求する。面食らったトニィは結果的に離婚訴訟を斥けて単身海外旅行に飛び出す…。結末には<読者に選ばせる>という趣旨からか「もう一つの結末」があり、全く正反対の結末が並べられる。私としては最初の方がヒネリも効いていて面白かった。著者も、どちらにするか大いに悩んだのだろう。 G504/1000。⇒2024/05/07
扉のこちら側
78
2016年197冊め。【148/G1000】タイトルの塵(Dust)は骨灰を指すのだろう。どんな人も死んでしまえば一握の灰、塵となる。そう考えるとアマゾンの熱帯雨林の中で死んで朽ちていくだろうトニーのヘットン・アビーが親戚の手に渡り、敷地にトニーの記念碑が建てられて維持されていくという結末はおもしろい。『荒涼館』や『失われた時を求めて』を先に読んでいてよかった。2016/03/21
NAO
72
片田舎の自分の領地を愛し城館に閉じこもって暮らすトニィをアーサー王になぞらえた『アーサー王の死』の現代風パロディ。浮気をする妻ブレンダがギネヴィアなのはわかるとして、どう見てもパッとしない浮気相手のジョン・ビーヴァがランスロットだとはとても思えない。全く魅力など感じられないジョン・ビーヴァにブレンダがよろめいたこと自体が痛烈な風刺だということだろうか。いかにもウォーらしいどぎつい終わり方とアメリカ人向けのハッピーエンドの両方が掲載されており、イギリス人の好みとアメリカ人の好みの違いがよく分かる。2019/02/13
白のヒメ
61
古い広大な屋敷に住む男と美しい妻、可愛い子供。裕福な生活が些細な物事から崩れていく。どんなにもがこうとも、所詮人間は死ねば一握りの塵でしかないのか。俗っぽいロンドン貴族の話が、最後一転して恐怖の展開へ向かい唖然とする。読み進めるのが辛い。作中で出てきたディケンズの作品を今後読む機会があるとしたら、このトラウマが蘇りそうだ。面白いことに、巻末にもう一つの結末がついていた。うん、こっちの結末ぐらいがこの話には丁度いいのではないか。66/1000 英ガーディアン紙が選ぶ「死ぬまでに読むべき」必読小説1000冊2015/07/16