出版社内容情報
東日本大震災直後に開催されたアート&アクセス第3回シンポジウム・公演の記録と論考。舞台芸術で実績を挙げているイタリアと日本のグループを招き、大阪西成の市民たちと社会包摂の取り組みの方法と意義を語り合う。
本書は2011 年3 月19、20 日に開催されたアート&アクセス第3 回シンポジウム・公演「Social Inclusion on Stage 」の記録と論考をまとめたものである。
開催直前に未曾有の大震災が東日本を襲い、マグニチュード9のプレート境界型巨大地震、最高40 メートルを超える大津波、そして福島県に集中立地した原子力発電所3基のメルトダウンという歴史上経験したことのない災害に遭遇して、日本社会は呆然と立ち尽くしている。
この状況の中で、多数の文化イベントやシンポジウムが中止に追い込まれたが、我々はこうした事態の中でこそ、アートによる社会包摂の試みが重要であるとの信念に基づいて開催することにした。震災直後の13 日にはイタリア、ボローニャからフラテルナル(友愛) 劇団の2人が周囲の心配を退けて、駆け付けてくれた。地震国イタリアで、彼らは被災地を支援する公演の経験が豊富なのだという。彼らの友愛は真にありがたいことであった。
この国では、3・11 大震災に先立ち、長引く不況の中で、日々の忙しい暮らしに疲れ、また、仲間や友人たちと話し合う機会も奪われて、将来への希望や見通しが持てなくなり、社会的に孤立してゆく傾向が強まってきた。そうした、生き難い状況を芸術文化によって変革し、一人ひとりを包摂してゆこうという試みが世界的に注目を集めている。
本イベントでは、パフォーミング・アーツ( 舞台芸術) の分野で素晴らしい実績を挙げているイタリアと日本のグループを招き、大阪西成の市民たちと舞台を一緒に創造し、鑑賞することを通じて、芸術文化による社会包摂の取り組みの方法や意義を共に語り合った。
創造都市とは、市民の誰もが、高齢者であれ、障がい者であれ、ホームレスであれ、失業者であれ、創造活動に参加して、直面する深刻な諸問題を創造的に解決することができる都市のことである。従来の社会が抱えていたバリアや障壁を乗り越えて誰もが自由に参画できるアクセスビリティの高い社会を実現することが求められている。
本書が、芸術文化を通してそのような新たな全員参画社会を作りだすエネルギーを産み出すことに貢献できれば、望外の幸せである。(本書まえがきより)
1はじめに 佐々木雅幸
2概要
3公演
マルガサリ
ガムラン・クリスタル マルガサリという妄想のなかで 本間直樹
釜ヶ崎ダンサーズ誕生の日記 佐久間新
仮面劇
普遍的演劇としてのコンメディア・デッラルテ
釜ヶ崎にやってきたコンメディア・デッラルテ 岡本マサヒロ
仮面劇・ダンス 出演者感想文
パッション!釜ヶ崎と海外の社会包摂系アーティストのであい 上田假奈代
海外のアーティストによる釜ヶ崎ワークショップ/ふたつの事例 上田假奈代
4シンポジウム録
5論考
イタリアにおける社会的排除/包摂とホームレス 北川眞也
アート&アクセス研究会第3 回シンポジウム・公演からみたコミュニティアートのマネジメント 高島知佐子
6おわりに 中川真
【著者紹介】
都市研究において実績のある大阪市立大が国内外に設けたサテライト施設(プラザ)を中心にまちづくりを考える、まったく新しいタイプの研究施設。現場での人のつながりを重視し、また毎年世界の第一線で活躍する都市研究者や政策家を招き国際シンポジウムを開催することで「プラザ」を中心としたネットワークをつくりだす都市研究の国際拠点組織です。
目次
公演(ガムラン・クリスタル―マルガザリという妄想のなかで;釜ヶ崎ダンサーズ誕生の日記;普遍的演劇としてのコンメディア・デッラルテ;釜ヶ崎にやってきたコンメディア・デッラルテ;仮面劇・ダンス出演者感想文;パッション!釜ヶ崎と海外の社会包摂系アーティストのであい;海外のアーティストによる釜ヶ崎ワークショップ/ふたつの事例)
シンポジウム録
論考(イタリアにおける社会的排除/包摂とホームレス;第3回アート&アクセス研究会シンポジウム・公演からみたコミュニティアートのマネジメント)