内容説明
1480年8月12日、イスラム教徒のトルコ民族がイタリア南部のオートラントを侵攻し、無差別の大量虐殺を行い、広場で住民800人を斬首する。以後、この地はキリスト教殉教者の都となる。そして現代のオートラントへオランダからひとりの若い女性がやって来る。教会の舗床のモザイク絵の補修に従事するためである。そこで彼女は、1480年当時の人たちと交流を持つ始める。
著者等紹介
コトロネーオ,ロベルト[コトロネーオ,ロベルト] [Cotroneo,Roberto]
イタリア・アレッサンドリア生まれ。哲学者・小説家・ピアニスト
谷口伊兵衛[タニグチイヘエ]
1936年福井県生まれ。翻訳家。元立正大学教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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藤月はな(灯れ松明の火)
31
ゴシック小説の先駆者であるウォルポールの『オートラント城』にも似た題名。トルコによって800人もののキリスト信者が殉教した都、オートラント。そこにモザイク修復のためにやってきた主人公は亡霊や虐殺時代の中心人物と同姓同名の人々と交流していく内に母の家系とこの都の縁を繙くことに・・・。無関係だと思うようなピースも当て嵌めていくと最後に自身も「オートラント」のピースに嵌り込んでいたと気づくような場面は「最早、逃れられない」と鳥肌が一気に立ちました。2014/04/14
rinakko
6
タイトルから興味津々になった。ウォルポールの作品との繋がりが気になるところで。観念小説で幻想譚。夢とも現ともつかぬ境地へいざなう、不思議な話だった。凄まじいやり方で殺害されたという、殉教者たちの都オートラント。モザイク修復の為にやって来た主人公は、虐殺命令を出した高官と同じ名の男を始め、幽霊たちと交流する。なぜオートラントなのか。その答えは、繙かれる母の家族の歴史にあった。オートラントを彷徨う眩暈感。ダイヤモンド研磨術を修得した先祖のこと、盲目のオルガン奏者、アーサー王の王冠…と、謎めいた作風は堪能した。2013/11/14
qoop
2
怪奇小説にありがちな筋書きを幻視者の観念的な世界認識に置き換えることで、抽象性を高めた思弁小説として再構築したかのような読後感。原文ゆえなのだろう、文章が生硬に感じられ、物語への没入を妨げられること度々。これはあえてだと思うが、そういう意味では実に効果的だった。語り手の、世界とのズレを読者サイドにも共有させるかのような手法…と云うか。それにしても本作は、怪談から組み立てられた文学作品としてかなり上首尾だと感じた。わざわざそう云う目で読む必要はないのだろうけれど。2013/12/19