内容説明
感傷にも甘さにも寄りかからない凛とした物語世界。アルゼンチン辺境で布教の旅を続ける一人の牧師が、故障した車の修理のために、とある整備工場にたどりつく。牧師、彼が連れている娘、整備工の男、そして男とともに暮らす少年の4人は、車が直るまでの短い時間を、こうして偶然ともにすることになるが―。ささやかな出来事のつらなりを乾いた筆致で追いながら、それぞれが誰知らず抱え込んだ人生の痛みを静かな声で描き出す、注目作家セルバ・アルマダの世界的話題作。
著者等紹介
アルマダ,セルバ[アルマダ,セルバ] [Almada,Selva]
アルゼンチンの作家。1973年、エントレリオス州に生まれる。州都パラナの大学に進み、社会コミュニケーションを学ぶも、方向転換して文学の道に進んだ。のち首都ブエノスアイレスに移り、作家アルベルト・ライセカの文学ワークショップに参加して研鑽を積む。2012年に刊行された本書『吹きさらう風』が読者や批評家から大きな反響を呼ぶ。各国語への翻訳も進み、国際的な評価を得た。2019年のエジンバラ国際フェスティバルでは、その年に英語で初めて紹介された最も優れた翻訳作品に贈られるファーストブックアワードを受賞している
宇野和美[ウノカズミ]
東京外国語大学スペイン語学科卒業。出版社勤務を経てスペイン語翻訳に携わる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
107
アルゼンチン北部の辺境の地で出会う男二人と少年と少女。それは偶然だったのか運命だったのか。車の故障、乾ききった土地での唐突の嵐。そして風がさらっていったものは何か。短く簡潔な話ながら、どの描写にもリアルな存在感が詰まっていた。それはそれぞれが心に渇きを抱えながらも人生を生きながらえようとする姿だった。人の生死や別れの意味を模索するように信仰の者と自然に委ねる者が向き合う。雨中で曝け出される剥き出しの心。最後の場面、誰も互いを見なかった。そこに良くも悪くも人は誰もが一人であることを思い知らされた気がした。2024/02/21
seacalf
49
車の故障で立ち往生した牧師と娘、修理に立ち寄った整備工場で働く男と少年、4人が織りなす一昼夜の話。短い話ながらずっしりとした読み応えなのは、それぞれの人物造形が見事だからか。自分の信じる道に邁進するピルソン牧師とグリンゴは最早生き様が完成されているが、異なる立場ながら同じく複雑な生い立ちのレニとタピオカの行く末が気になり、読後はしばし思索に耽る。毎度曖昧になるが、牧師がプロテスタント、神父がカトリック。読友さんの感想を読み直して再確認。ええと、自分の結婚式の時は牧師さんだったよなと想いが脱線してしまった。2024/01/23
かもめ通信
28
1973年生まれのアルゼンチンの作家が描き出すのは、車の故障と嵐によってもたらされた一昼夜足らずの出来事。主な登場人物は、牧師とその娘、自動車整備工グリンゴとその息子とおぼしき10代半ばの少年タピオカに犬のバヨ。それぞれの回想はあるにしても、派手な演出も大きな事件もないとても静かな物語だ。にもかかわらず、灼熱の太陽と熱風に舞い上がる砂埃がもたらす息苦しさや喉の渇きに、頁をめくりながら思わず咳をし、四人と一匹の現在と語られた過去と共に、語られることのない未来について想いをはせずにはいられない。2023/12/18
慧の本箱
22
著者セルバ・アルマダお初です。自分の母親を置き去りにした牧師の父親と辺境の地で布教活動に旅する娘。二人が車の故障で行き着いた先には、スクラップだらけの車に囲まれた、自動車整備工場。そこには整備工と犬と牧師の娘と同じ十代半ばと思われる少年が居た。その彼らの一昼夜の話が熱風と嵐の中で、淡々と語られ読み手に不思議な余韻を残す。2024/02/02
フランソワーズ
16
過去のあやまちに縛られた信仰心の篤い牧師ピルソン。キリスト教など糞食らえと唾棄しながらも、自然に対する感謝と畏怖の念を持つ初老のタフガイ、グリンゴ。その彼に拾われた孤児であった純真無垢な少年タピオカ。牧師でもある父のあやまちを許せず、不信感を抱く娘レニ。牧師の車が故障したことで、期せずして一堂に会する。太陽が灼き尽くす土地、そこに突如襲い来る嵐。通りすがるだけであった父娘、それを束の間迎えるだけであった男と少年。しかし彼らの運命がそのいっときの邂逅で動き出す。派手さはないが、いつまでも余韻が残る小説。2023/11/17