内容説明
第一次大戦後に勃発したソヴィエト‐ポーランド戦争。オデッサ出身のユダヤ系作家イサーク・バーベリは自らの文学の題材を見出すために、この戦争に従軍する。戦争の過酷な現実を描写する散文と、生の豊穣な本質を顕現させる詩との境界線上で、危うい均衡を保ちながら奇跡的に成立したバーベリの傑作が、新訳で蘇る。
著者等紹介
バーベリ,イサーク[バーベリ,イサーク] [Бабель,Исаак]
1894‐1940。黒海沿岸の国際貿易都市オデッサの、ユダヤ人商人の家庭に生まれる。オデッサという多民族・多言語の環境で育ちながら、ユダヤ人としての意識を保ち続けた。長じてペトログラード(現サンクト・ペテルブルグ)に移り、その後各地で文学修業を積む。ソヴィエト‐ポーランド戦争に赤軍コサック騎兵隊の特派員として従軍後、故郷オデッサのユダヤ人ギャングの暗躍を語った連作『オデッサ物語』と、後に『騎兵隊』にまとめられる諸短篇を発表、1920年代半ばのロシア文学界に衝撃を与えた*。ほかに『私の鳩小屋の話』から始まる自伝的短篇群や、戯曲『黄昏』『マリア』などがある。1939年5月に外国人スパイとの接触等の嫌疑で逮捕され、翌40年1月に銃殺された
中村唯史[ナカムラタダシ]
1965年札幌生。東京大学大学院人文科学研究科露語露文学専攻博士課程退学。現在、京都大学大学院文学研究科教授。専門はロシア文学・ソ連文化論(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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蘭奢待
26
ウクライナ生まれのロシア人作家。ソビエト赤軍に従軍。ロシア側の立場でポーランド・ロシア戦争を描く。
梅子
2
詩と散文の狭間というのが未経験な為か、若干読みにくく全体の構成を理解するのに時間がかかった。だけど一つ一つの章に毎回没入させられ、人間の未熟で醜く愚かな面と化け物のように巨大な"ロシア"の圧迫感に感情が揺れ動かされた。面白いのは、脳裏で再生される情景が全部ゴッホの絵画のようになってしまう事。だからこれは新種のマジックリアリズム。絵筆で塗り潰された星空の下で、バーベリは従軍記者として目撃した疲労と狂気を、やはり絵の具のダレや盛り上がりを駆使して描く。だからパン・アポレクはバーベリ自身なのだ。2023/09/11