内容説明
終わりのない旅を続ける亡命者エックス。出会いと別れ、獲得と喪失を繰り返す遍歴のはてに見出されるものとは。母国ウルグアイの圧制を逃れ、亡命という「痛みを伴う複雑な経験」をくぐり抜けた著者がつづる、現代の遍歴の物語。
著者等紹介
ペリ=ロッシ,クリスティーナ[ペリロッシ,クリスティーナ] [Peri Rossi,Cristina]
1941‐。ウルグアイの首都モンテビデオに生まれる。母はイタリア系移民二世。1960年に大学入学、64年に比較文学の学位を取得。その前年にデビュー作となる短編集を刊行している。当時のウルグアイでは経済危機を背景に改革派と体制派の対立が激化しており、72年にスペインへ亡命。以後はバルセロナを本拠地として、詩や小説、エッセイ、新聞や雑誌の記事などの執筆活動を行っている。作品は世界で20以上の言語に翻訳されている。独裁制への抵抗、そしてフェミニズムと同性愛者の権利を擁護するためにたたかってきたことを公言しており、圧制、亡命、エロティシズム、欲望などが特徴的なテーマ
南映子[ミナミエイコ]
1980年生まれ。東京大学教養学部卒業、同大学院総合文化研究科博士課程修了。中央大学経済学部准教授。専攻はラテンアメリカ文学、ラテンアメリカ地域研究(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヘラジカ
43
輪郭の定まらないエックスなる人物が、千鳥足のようにあらゆる地の旅行記憶をゆらゆらと彷徨う幻想的な作品。フラヌールというにはあまりに酔歩の感があり。ロードノヴェルと言って言えなくもないが、少し違う気もする。解説で書かれている通り一息に読みきる「長編小説」ではないのかもしれない。物語の芯は捉えられないものの、詩やエッセイ集を読んでいるようで逆に妙な心地よさがある。聖書や神話、ヨーロッパ古典文学、ジェンダー問題など言及されるテーマの幅広さも相まって読書自体が揺れる船での旅行のようだ。傑作。2018/07/27
hiroizm
18
ウルグアイ出身の亡命作家による、あてのない旅をしている謎めいた男の物語を中心に虚実混在のテクストが連なる不思議な味わいの散文詩的小説。いわゆる心病んだ人々を船ごと海に遺棄するために雇われた船乗りの話の表題作「狂人の船」や、妊娠中絶バスツアーなど、短いながらも印象深いエピソードが多々あり、なかなか興味深い作品だった。1984年発表なのだが、スタイル的にはオルガ・トカルチュクの「逃亡派」風。残業が厳しくなければもっとハマれたと思う。また落ち着いたときに再読したい。2021/04/08
生薬
4
亡命者エックスの奇妙な旅行記。時系列も謎。何か微妙にズレてるのが面白かった。2018/12/23
刳森伸一
1
亡命者エックスの物語として始まるが、断章を積み重ねていくうちに様々物語が入り込んでくるのでなかなか捉えがたい。やや退屈するところもあるが、その反面、心に強く突き刺さるところもある。それにしても最終的にフェミニズム文学の様相を呈してくるのは予想外だった。2019/07/13