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内容説明
戦争がはじまり、祖国が消えた。戦争がおわり、新しいかたちの国ができた。ボヘミア地方の小さな町とビール醸造所でも、また別の新しい時代が始まる。しかしそこには、古い時への鍵しか持たず、新しい時代には入れない人々も、また…コレクション前作『剃髪式』のその後を描く、ノスタルジックな佳品。
著者等紹介
フラバル,ボフミル[フラバル,ボフミル] [Hrabal,Bohumil]
1914‐1997。二十世紀後半のチェコ文学を代表する作家。モラヴィア地方の町ブルノに生まれ、ビール醸造所で幼少期を過ごす。プラハ・カレル大学修了後、いくつもの職業を転々としつつ創作を続けていた。1963年、短編集『水底の小さな真珠』でデビュー、高い評価を得る。その後も、躍動感あふれる語りが特徴的な作品群で、当代随一の作家と評された。1968年の「チェコ事件」以降は国内での作品発表を制限されたが、旺盛に創作活動を続けていた
平野清美[ヒラノキヨミ]
1967年神奈川県生まれ。早稲田大学、プラハ・カレル大学卒業(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
どんぐり
68
『剃髪式』に続く作品。フラバルが子どもだった頃の古き良き時代、ボヘミア地方ヌィンブルクの町はずれに立つベージュ色のビール醸造所。この醸造所の会計士から支配人、所長にまでになった父親フランツィン、そしてこの作品の主役ともいうべきペピンおじさん。時の止まった小さな町の、古い時代を生きた人間がユーモアたっぷりに描き出される。これぞ、フラバルの人間賛歌。子どもの目に映った「小舟と錨」の刺青の導入部の描写から引きこまれる。ペピンおじさんの栄光の「水兵帽」は、どんな意味をもっていたのだろう。2016/03/05
かもめ通信
28
松籟社の「フラバル・コレクション」第3弾は、『剃髪式』の後日譚。続編ではあるが、前作で読み手をアッと驚かせるほど、はつらつと飛び回っていた著者の母をモデルにしたという若妻マリシュカはほとんど出てこない。代わって物語を語るのは、彼女の一人息子、つまりフラバル自身だ。騒々しいほどにぎやかで饒舌に、次々と語られていくエピソードは、ユニークで破廉恥で時に顔を赤くして目を覆いたくなるほどなのに、指の隙間からついついのぞき見ずにははいられない喜劇ぶり。そのくせどこか懐かしくて切なくてやるせない気分が漂う秀作。2016/04/11
かわうそ
27
「剃髪式」に引き続きペピンおじさんを中心としたドタバタ劇が楽しい。実直で生真面目な弟とデタラメだけど魅力的で人気者の兄という兄弟間の葛藤や、過ぎ去った時間に対するノスタルジックで切ない視線など短い作品ながら盛り沢山で読み応え抜群。すごくよかったです。2016/05/10
zirou1984
26
チェコの国民的作家による『剃髪式』に続く自伝的小説。第二次戦間期における町の日常は時に不穏な陰も見受けられるが、そんなものを吹き飛ばすかのようなペピン叔父さんの圧倒的魅力がたまらない。前半部分における小さなビール醸成所を舞台としたエピソードの数々は煌めくような輝きを宿しているが、それ故に時代に翻弄されたチェコの現実が露わになる部分はほろ苦い。人は環境によって驚くほど変わってしまうし、時代は容赦なく進んでいく。しかしこのような悲しみを引き受けて直、尽きぬ眩しさに胸を動かされてしまう。フラバル作品に外れなし。2018/07/28
ネムル
21
「時の止まった町」にも現代的な時間の波は訪れる。『剃髪式』に続きぺピン無双は続くも、やがては何も見えないと駄々をこねるように消沈していく(あらゆるものを見て、あらゆるものを見ないヤン・ジーチェを連想した)。ぺピンおじさんに涙、フラバルに乾杯。2019/09/07