内容説明
『嵐が丘』の読者は数多の謎に遭遇する。謎を解くためにテクストから証拠を拾い上げてゆくと、また新たな謎が出現し、これまで見えなかった作品の一断面が、鮮やかに浮かび上がってくる…好評を博した旧版『「嵐が丘」の謎を解く』(創元社、2001)に3つの新章を加え、全面的に改稿した増補決定版。
目次
第1章 序説―『嵐が丘』の謎はどこから生じてくるのか
第2章 「許されざる者」とは誰か―『嵐が丘』の神学的解釈
第3章 ヒースクリフは何者か―「分身」のテーマの変容
第4章 時間の秘密―年代記を解読する
第5章 空間に埋め込まれた秘密―イメジャリーを解読する
第6章 隠された会話―ある劇的瞬間
第7章 第二世代物語論(一)―鏡の世界
第8章 第二世代物語論(二)―ファンタジーとしての『嵐が丘』
第9章 『嵐が丘』の起源―新・旧「伝説」をめぐって
第10章 『嵐が丘』のトポス―「荒野」物語についての比較文学的考察
著者等紹介
廣野由美子[ヒロノユミコ]
1958年生まれ。1982年、京都大学文学部(独文学専攻)卒業。1991年、神戸大学大学院文化学研究科博士課程(英文学専攻)単位取得退学。学術博士。英文学、イギリス小説専攻。1996年、第4回福原賞受賞。現在、京都大学大学院人間・環境学研究科教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
buchipanda3
96
「嵐が丘」の読み解き。物語を読んだ際、復讐という現実性とゴシック調の神秘性が混合するためか、面白さと共にミステリ的な読み味の感覚に囚われた。傍観者の一人称は語られない空白があるため読者に想像を喚起させ謎解きの魅力を醸すとのこと。確かに主役二人の心情は直接描かれない。両者とも互いを自分そのものと言い切る所が特に印象的で、深い愛と思えるがそれ以上の何かをも彷彿させる。それが自我の分離と融合の場面へ繋がる。世代間の鏡像性と第二部の迷妄から解放の意義という点も興味深かった。原作品の構造の妙味、解釈の幅広さに感服。2024/05/10
ころこ
39
『嵐が丘』を読み、作者の実生活における閉塞した家と家族に対する妄想が書かせたのではないかと解釈して読んだが、他レビューでは恋愛や復讐の話として読んでいる読者が多くいることに気付く。『嵐が丘』はまずリアリズムとして読まれ、後年になって構造的、抽象的、象徴的に読まれたことによって、多くの批評や文学研究を生んだ。本書は初出が1987年から2015年までの29年間にわたって、著者が様々な媒体に発表してきた論文集だ。各章の読み方に統一性は無く、それぞれに矛盾した箇所もある。相反する読みがその都度出来てしまうことは『2023/09/29
モトヒロ
3
エミリ・ブロンテの『嵐が丘』に秘められた謎の解明をできる限り試みたもの。著者も言うように、これによってすべての謎が解き明かされるというよりは、むしろ謎は深まる一方である。新たな解釈の提示は作品の違った読み・新たな側面に光をあてることになるこの作品のもつ「謎」の性質は、そうであるがゆえに古典として現代までも読み継がれるものなのでしょう。内容に関して言えば、個人的にドッペルゲンガーのモチーフは非常に興味深く読みました。2017/03/21
起死回生の一冊を求めて
2
「嵐が丘」はここしばらく読んだ中で最高に面白かった作品。読んでいるあいだは夢中でしたが、読み終わってみると、確かにところどころが謎めいている(いい意味で)。というわけで謎解き解説本ですが、明快な解答が提示されているというよりは、あくまでこういう見方もあるよ、というものが多い。謎は謎のままなんですが、それでも作品の魅力は半減するどころかむしろ倍増する。こんな素晴らしい作品は何度も読むべき。きっとしばらくしたらまた読むでしょう!2023/03/24
読書記録(2018/10~)
1
純粋な文学論というものを久しぶりに読みたくなるほど、嵐が丘の不思議な魅力は謎だった(そうそう、文学論ってこういうのだった……)。第一世代と第二世代の比較など面白い。第一世代について「大人になれなかった子供が、子供時代を永遠に留めることを求め続けて、死後にようやく子供時代へと回帰する」(226頁)あたりは、特に納得できる分析だった。2023/05/22