内容説明
あまりにも純粋な、あまりにも頑な心がうみだした悲劇。「森ゆく人」と呼ばれる老人ゲオルク。彼には、取り返しのつかない過ちを犯した過去があった…あたかも償いの道を歩むかのように、ボヘミアの静かな森をさまよい続けるゲオルク。その傷ついた心を、森は優しく受けとめ、慰めてくれる…。
著者等紹介
シュティフター,アーダルベルト[シュティフター,アーダルベルト][Stifter,Adalbert]
1805‐68。19世紀オーストリアの作家。自然描写の比類なき美しさで知られる。ハプスブルク帝国の都ウィーンで活躍したのち、1848年の革命後はドナウ河畔の町リンツを創作活動の場とした
松村國隆[マツムラクニタカ]
1943年、奈良県生まれ。大阪市立大学文学部卒業、同大学院博士課程中途退学。大阪市立大学教授を経て、関西外国語大学教授。大阪市立大学名誉教授。専門はオーストリア文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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きりぱい
9
何とも端正で静かななか不意に胸を刺しぬかれる物語。最初はひたすらボヘミアの森とモルダウ河周辺の風景描写。20ページ頃にやっと主役らしき者が語られ、それでも物語が動き出すのはもっと後。150ページほどの本なのにどこまで?なんてちらっと思ったけれど、この展開は予想もしなかった。ボヘミアの森を歩きながら蝶や苔を収集し、今は森ゆく人と呼ばれる老人の半生。途中ゲオルクとコローナの父親がごっちゃになって、ん?となったものの、ああ、なんで受け入れてしまったんだ、と哀しすぎるも心に沁みる読後感。2012/10/11
Aleixo
2
静かで、美しい物語だった。森番の息子との交流~コローナとの結婚生活までがとても穏やかに描かれていたので、その対比で第2章の終盤から第3章にかけての悲しみが際立ち、その余韻が読後も続く。森ゆく人の魂が救われますように、と祈らずにいられなかった。いつかそう遠くない未来に、森林に囲まれた静かな場所で、心を穏やかにして、シュティフターの世界に浸ってみたい。2024/08/31
スエ
1
人間の心の美しさと頑さのゆえに、別れを選んだ夫婦。十数年後にボヘミアの森で偶然再会したゲオルクに対するコローナの一言が、鬱蒼とした森に差し込む一条の光のように読み手に突き刺さる。静かな感動っていうのはこういうことを言うんでしょうね。僕はこの作品を読んでて、ある画家の作品を連想しました。詳しくはこちらをごらんください。 http://suesue201.blog64.fc2.com/blog-entry-309.html2011/05/16
comcom
1
とりあえず手元にあったので再読。私の初めてのシュティフター作品です。語り手のその後が妙に気になってしまいました。悲しいお話なのですが、読んでいると自然と笑みがこぼれる場面が多いので電車などでは要注意。あとラストもやっぱり涙でそうで困りました。2009/10/20