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出版社内容情報
ボフミル フラバル[ボフミル フラバル]
著・文・その他
石川 達夫[いしかわ たつお]
翻訳
内容説明
ナチズムとスターリニズムの両方を経験し、過酷な生を生きざるをえないチェコ庶民。その一人、故紙処理係のハニチャは、毎日運びこまれてくる故紙を潰しながら、時折見つかる美しい本を救い出し、そこに書かれた美しい文章を読むことを生きがいとしていたが…カフカ的不条理に満ちた日々を送りながらも、その生活の中に一瞬の奇跡を見出そうとする主人公の姿を、メランコリックに、かつ滑稽に描き出す、フラバルの傑作。
著者等紹介
フラバル,ボフミル[フラバル,ボフミル][Hrabal,Bohumil]
1914‐1997。チェコの作家。モラヴィア地方の町ブルノに生まれ、プラハ・カレル大学で法学を修めたのち、様々な仕事をしながら創作を続けた
石川達夫[イシカワタツオ]
1956年東京生まれ。東京大学文学部卒業。プラハ・カレル大学留学の後、東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。現在、神戸大学大学院国際文化学研究科教授。スラヴ文化論専攻。主要著書に『マサクリとチェコの精神』(成文社、サントリー学芸賞および木村彰一賞)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
miyu
65
チェコというとカフカ以外クンデラくらいしか読んだことがないが、実はクンデラよりもフラバルの方が国内では人気とは翻訳本好きとしては迂闊であった。短めの作品なので気軽な気持ちで開いたが、軽妙な語り口のわりに言ってることや本人の状況は重苦しくて読み終えるのに若干しんどかった。だけど、よかった。単純によかった。なんだろう、この視覚と聴覚にグイグイ迫ってくるシュールで哀しい感じは。表現される色彩以上に印象がとても鮮やかなのだ。こちらの脳内想像力を刺激するような、そんな何かがあって。ハニチャの語りは飾らず魅力的だ。2015/05/04
zirou1984
60
いい。とてもいい。35年間、古紙に埋もれ押し潰す仕事を続けた男にとって世界はまるでひび割れた耳鳴りの様だ。ここには世界に繋がろうとする読書の喜びがあり、また世界に押し潰されようとする圧政下チェコの悲しみがある。巧みな抽象的メタファーは無数のイメージを喚起させ、具体的史実の提示は時に痛みと切実さを突き付ける。不条理な日々を生きる庶民の目線はシニカルさとユーモアが同居しており、無数の解釈に開かれていながら流れる様に読み進められてしまう。そう、物語はこんなにも矛盾を飲み込みながら、時代も孤独も越えて届いてくる。2014/02/26
マリカ
45
舞台は社会主義時代のプラハ。主人公のハニチャは、35年間、検閲により廃棄処分になった本などの故紙を水圧プレスで潰して塊にする仕事をしてきた。本が好きな人には、心をプレスできゅーっと潰される思いがすると思う。一方、ハニチャが故紙の中から美しい本を見つけては家に持ち帰って読むのを喜びとしていることにとても救われる。不条理の中で生きていくためには、その中に喜びを見いだす必要があるのだろう。しかし、やがて時代の波が押し寄せ、ハニチャのささやかな喜びを容易く奪い去ってしまう。 不条理を滑稽に描くフラバルの傑作。2012/11/06
マリリン
35
幻想的で独特な世界に惹かれた。似て非なるが安部公房や金子薫の作品を想う。35年間のプレス作業は終わりのない絶望感と疲労感、投げ込まれる本に押し潰されそうになる閉塞感。故紙の塊は屍のよう。糞や色とりどりの肉蠅が飛びかい媚態をさらすジプシー女の姿。だが脳裏に描かれる情景はシュールで耽美でもある。生涯好きだった仕事の続きに他ならない遊びに我を忘れて没頭していたひとの死…死体を埋葬する様…そしてハニチャ自身もじわじわと押し潰されていく。大量の本は姿を変えた人間のように感じた。哀しくも幽かな恍惚感すら漂う。 2021/02/15
長谷川透
35
ブラッドベリの『華氏451度』と被る。しかし、プラハの春以降もチェコで書き続けた作家の物語は、共産主義批判を小説化した名作SFが軽く思えるくらいに胸に切迫してくるものを感じる。伝聞で知った情報を基にした創造よりも、ディストピアに生きた者の声の方が勿論強い。35年間、地下室で書物をプレスで押し潰して生きる男を書く。書物は死せども、書物から得たものは決して死に絶えぬ。社会主義の下、封殺される言論の中で、声には出せぬが、精神の中でふつふつと湧きあがる思想の叫ぶ声。『あまりにも騒がしい孤独』とは言い得て妙である。2014/01/15
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