内容説明
病床の母から繰り返し聞かされた、幼少期をすごしたあの小さな町の記憶。そこでは火事で多くの人が亡くなり、私の兄もそのとき死んだのだという。ある日、家出してたどり着いた森の中の家には、女性が隠れ住んでいた。それを機に母と親しくしはじめた彼女が起こした騒動をきっかけに、私の家族は壊れてしまう。最期まで語られなかった母の秘密。記憶をたどる中、父との再会で告げられた思いもよらない真実とは…。
著者等紹介
ソンボミ[ソンボミ]
1980年生まれ。2009年に21世紀文学新人賞を受賞、2011年に東亜日報の新春文藝に短編小説「毛布」が当選する。短編集に『彼らにリンディ・ホップを』『優雅な夜と猫たち』『愛の夢』、長編小説に『ディア・ラルフ・ローレン』『小さな町』『消えた森の子どもたち』などがある。若い作家賞、大山文学賞、李箱文学賞などを受賞
橋本智保[ハシモトチホ]
1972年生まれ。東京外国語大学朝鮮語科を経て、ソウル大学国語国文学科修士課程修了(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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azukinako
56
幼いころに母と暮らしていた小さな町の記憶。母は亡くなっていないのに、ずっと記憶に閉じ込めていた母の言ったことがきになり始める。きっかけは夫のスクラップブック。自分が母から聞いていたことは本当なのか、自分だけが知らない母の秘密があるのか。過去と現在が行きつ戻りつしながら、このまま闇の中のままに終わると思っていたが、最後にどんと重たい事実。いい意味で裏切られる。2024/01/15
rosetta
33
申し訳ないが読んで何も感じなかった。何だか過去に秘められた物語がありそうではあるが、明かされた真相はミステリーファンとしてはありふれ過ぎた物。もちろん作者にはミステリーを書いているつもりはなく純文学として読むべきなのだろうけれど。ソウルに暮らす主人公が母の死をきっかけに過去を回想する。父が出ていった後に母と二人で暮らしていた小さな町地元に馴染めなかった少女が親しくなったのは森の奥の瀟洒な家に住む美しい女性だった。北の海に流され拿捕され帰国したがスパイ容疑で有罪判決を下された漁師。理解と無理解が主題なのか?2024/02/06
星落秋風五丈原
21
表紙に登場する人達は、皆赤い服を着ている。赤い服といえば、ソウルの広場が赤で染まったワールドカップを想起するが、そのような熱気は表紙から感じられない。むしろ表情を決定する目が描かれないため、不穏な印象である。赤は情熱というより血を想起させる。口が書かれている人物もいるが、口を開けているのは赤ん坊くらいでそれ以外の人たちは閉じている。事実を知らせていれば、そうはならなかったのか。全てを知り、これから私はどう生きるのか。都合の悪い事は全て消して軽々とした暮らしをするのか。それとも全てを背負って生きるのか。 2024/02/06
フランソワーズ
14
母の死をきっかけに、自らを規定していた過去を紐解いてゆく〈私〉。ソウルで夫と生活する現在と、あの”小さな町”で母と暮らした過去が交差する。その末に、離婚して去った父との再会を経て、驚愕の事実が明かされる。これまで生きてきたその軌跡でさえ屈折しているのに、突然襲ってきた過去の全貌。苦悩し続けてきた〈私〉の姿が微に入り細を穿ち、描かれている、それだけで引き込まれたのに、さらにまさかの事実!予想とは異なり、とても濃い内容でした。2023/11/19
三日月
9
タイトルの「小さな町」は主人公の「私」が幼い頃に住んでいたところ。彼女は大人になり結婚してソウルに住んでいる。夫との関係は冷えている。芸能プロダクションで働く夫が毎日せっせとスクラップしているノートをこっそり見るのが私の日課。そこで見つけた北朝鮮のスパイ容疑で冤罪だったにも関わらず20年も服役した男の記事がなぜか頭から離れない。 あるとき落ちぶれた女優が突然姿を消したことを契機に私は「消えていた」幼い頃の過去について回想していくことに。 異常とも思える程、過保護だった母親と、私たちの前から(つづく)2024/02/09