出版社内容情報
このままでは、裁判員制度は誤判の温床になる。誤判を防ぐための刑事司法の改革が、いま必要である。誤判を防ぐためにさまざま改革を進めているアメリカ刑事司法に学ぶ。
序章 深刻な司法の反省--雪冤ラッシュを生み出したもの
第1章 画期的な刑事司法改革--イリノイ州の挑戦
第2章 ミランダ原則と取調べの可視化
第3章 証拠開示の拡充が冤罪を防ぐ
第4章 定着する可視化・証拠開示システム--ミネソタ州の改革
第5章 目撃供述の誤りによる誤判
第6章 DNA鑑定の発展と冤罪の発見
第7章 公設弁護人制度の実情
第8章 進む陪審改革--市民にわかりやすい裁判、市民が積極的に参加する制度を
第9章 公判準備活動の保障
第10章 周知徹底される無罪推定の原則
第11章 誤判を生まない裁判員制度へ
◎まえがき
本書は、筆者が日本弁護士連合会の推薦をいただいて、2004年8月からニューヨーク大学ロースクール客員研究員として留学した際に触れたアメリカ刑事司法とその改革に関する記録である。
2009年から市民参加の刑事裁判システム「裁判員制度」がはじまるのを前に、市民参加による刑事裁判の先輩であるアメリカで、どのようなかたちで公正な裁判を実現させているのかを学ぶため、ニューヨークに着いて早々、ダウンタウンの裁判所に通い始めた。幸い、ニューヨーク州の全面的協力を得て、生きた陪審裁判をたくさん見学する機会を得た。アメリカでは、スコット・ピーターセン、マイケル・ジャクソンの陪審裁判が大々的に取り上げられるなど、刑事司法はいつも市民の関心の的だった。
しかし、一方で私が気になって仕方がないニュースがあった。死刑囚が無実とわかって解放された、という相次ぐニュースだった。テレビには、毎月のように、何人もの元死刑囚が登場し、「なぜ死刑棟に送られたのか」を語る。ニューヨークでは「The Exonerated(冤罪をはらした人々)」というミュージカルまで上演された。 それまでの渡米で陪審制に接し、陪審制度を支持していた私にはとてもショックな事態体だった。果たしてアメリカ陪審制度に何が起こっているのだろうか。陪審制度のもとで起こる誤判は、日本で始まる裁判員制度にとっても他人事ではない。
しかし、アメリカの司法関係者も「陪審制度下での冤罪」という事態を傍観してはいなかった。アメリカでは現在、死刑執行停止の議論が盛んに行なわれる一方、各州で、知事や裁判官が率先して誤判防止のための委員会を設置し、誤判原因を徹底的に調査し、刑事司法改革を提言し、ダイナミックな改革が次々に進んでいる。
幸い、弁護士会において司法改革にご一緒に携わらせていただいた諸先輩方のご支援で、カリフォルニア州、イリノイ州、ミネソタ州、ニュージャージー州、ノース・カロライナ州、アラバマ州を回り、なぜ誤判が発生したのか、それぞれの州はどんな改革によって誤判を防ごうとしているのかを調査した。アメリカの改革のスピードとエネルギーには圧倒されたが、同時に、私が気づいたのは、アメリカで次々に問題とされ、改革のターゲットにされている問題は、日本でも改革されるべき課題なのだ、ということである。
私はアメリカの旅から、日本で裁判員制度を実現するにあたって、新しい視点からの改革が必要だ、との認識をもらって帰ってきた。1人でも多くの方に本書を手にとっていただき、市民参加制度のもとでの刑事司法制度改革の課題についての議論に一石を投ずることができれば、望外の喜びである。
2006年11月
伊藤和子