感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ハチアカデミー
13
文学という記憶装置から、1940年代における言説の揺らぎを再構築する。序章~第2章では、野家×高橋「歴史物語り」論争にも言及しつつ、1930~1940年代という時代に於いて、作家が歴史小説で何を描こうとしていたのか、読み手は歴史小説に何を求めていたのかを考察。それを1941年12月8日以降の歴史小説言説と繋ぐことで「歴史化される現在」という当時の言論状況が明らかにされる。第3章では「故郷」という言葉の概念がずれていく過程を、第6章では小林秀雄を俎上に戦前と戦後で同じ言葉の見せ方と読み方の変化を考察。凄い!2015/10/27
田口 耀
1
千葉大の先生2021/11/08
さとうち
0
本書に通低するのは、「〈十五年戦争〉を遂行する日本の言説空間」における全体主義的イデオロギーへの抵抗―それは「書く」という行為遂行的な次元で行われる―の試みを拾い上げるという視点だろう。個人的に特に面白かったのは、「『豚』並みに『卑劣』に生きること」によって「戦時中の〈記憶〉を刻む」という点に安吾「白痴」の方法を見る五章と、「本当の事」への志向を一方に配置しつつも〈誤読/誤訳〉が繰り返され〈記憶〉が分有されていくというようすを辿った圧巻の『万延元年のフットボール』論。2013/06/08