内容説明
1930年頃、大阪の朝鮮人密集地域の蒲鉾工場・東邦産業で働く金俊平は、その巨漢と凶暴な性格で極道からも恐れられていた。ある日、飛田遊廓の女郎・八重の虜になって錯乱した同僚が、自分の腹を切り裂いて死ぬという騒動が起こる。興味を抱いた金俊平は八重の淫蕩な女体に溺れて水揚げするが、逃げられてしまう。自棄になった金俊平は警官隊を叩きのめして東邦産業を馘になり、太平産業へ移る。数カ月後、金俊平は飲み屋を経営する子連れで美貌の李英姫を凌辱して強引に結婚するが、かつて賭場の争いで半殺しにした極道たちとの大乱闘の末、大阪を離れる。直後、太平産業では朝鮮人労働者の解雇をめぐる激しい労働争議が起こるが、それは太平洋戦争前夜の暗い時代の幕開けに過ぎなかった。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
GaGa
56
時間があるときにいつかじっくりと読み返してみようと思っていた本。再読した今のほうが、初めて読んだ時よりも心に沁みた。きっとそれは初めて読んだ時よりも年をとったからだろう。この作者はこの作品が生涯超えられない壁となってしまっている気がする。映画も見たが、この小説の十分の一も語れていない。未読の方は是非読んでみて下さい。圧倒されます。2012/03/02
やいっち
44
遠い昔 読んだ。気迫籠る作品。作家が亡くなられたとか。合掌
千穂
38
正月から読んでいたこの一冊は、かなりヘビー過ぎる大作だった。図書館、地下の本の蔵から探してきた。朝鮮人金俊平の凄すぎる一代記。こんな化物みたいなオッさん、本当におるんかい?と思うくらい酷すぎ。金、女、暴力が全て。著者梁石日の実父をモデルとしているのだと思うが、怖い作品だった。2021/01/10
だい
16
読み終えた後、あまりの無茶苦茶な内容に気分が悪くなった作品です。 ただ人の欲を描ききった点は評価に値しますが…賛否両論といったところでしょうか。。2020/06/30
梟をめぐる読書
13
表紙の異貌がすべてを物語る、存在そのものが〝暴力〟であるかのような男・金俊平の壮絶な一代記。この男の気まぐれに振り回されて、どれだけの人生が狂わされたのか。考えるだけでも恐ろしい…のだが、公然とした差別の対象である「在日朝鮮人」として、帰属すべき故郷を喪失した孤独、実力を誇示しなければ渡って行けない社会的現実を根拠とする彼の苦悩は、恐らく殆どの日本人にとって想像に余りある。金俊平の存在は家族にとって生涯憎悪の的となるが、しかし父性の衰弱した現代、このような父親像を一部に希求してしまうこともまた事実なのだ。2013/03/10
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