内容説明
1970年代、九州の静かな町に降ってわいた火力発電所建設計画。「高度経済成長」の時代、国や電力会社の「開発至上主義」に真っ向から挑んだのは、組織も名もない、心やさしき少数の人々だった―“ほんとうの豊かさ”を問う「暗闇の思想」が、3・11後の今、40年の時を超えて輝きを放つ。
目次
暗闇の思想を―火電阻止運動の論理(始まり;「科学」への挑戦;冬から春へ;論理を模索する旅へ;「無駄」を積み上げること;「法律の壁」―永い闘いへ)
明神の小さな海岸にて(海の価格;殺されゆく海;山の神、海の神;夜の海岸で)
著者等紹介
松下竜一[マツシタリュウイチ]
1937年、大分県中津市生まれ。高校卒業後、家業の豆腐屋を継ぐ。1968年、短歌と散文で綴った歌文集『豆腐屋の四季』を自費出版。翌年、講談社から刊行、ベストセラーに。1970年、豆腐屋を廃業、作家生活に転じる。1972年、豊前火力発電所建設反対運動へ。1973年、運動の機関誌として「草の根通信」を創刊。以後、執筆活動と並走してさまざまな市民運動に取り組む。1982年、『ルイズ―父に貰いし名は』で講談社ノンフィクション賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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Kazuha Harada
1
豊前火力発電所事件で、本人訴訟を最高裁まで戦った人の記録。逮捕者まで出したこの事件。さぞかし熱い人なのかと思いきや、「やさしさゆえに権力に付け込まれるのではなく、やさしさがそのやさしさのままに強靭な抵抗力となりえぬものか、せつないまでに考え続け」、自分は市民運動には不適格だって苦悩する。「海が母の字より成るは、太古最初のいのちを妊んだ海への古人の畏敬であったろう。その母への凌辱は今やとどまることを知らぬ。」 もう一度勉強しなおしたい公害、そして環境権訴訟。海の価値など現代的示唆にも富む名著です。2012/11/07
ゆれる
1
太鼓を叩いてアイフォンを撫ぜ繰りまわし、制服に身を包み保身をしながら職務放棄する警官を安物の人情話として褒めそやし、ただ物理的な視点のみにおいての非暴力を振りかざすのがデモではない。「支配者にとっての危機を、あたかも被支配者であるわたしたち民衆の危機の如く受けとめて、支配者的視点に迎合していく短絡」。現在の生き写しのような状況を40年前に記したこの本だけは多くの人に読まれてほしいと思う。2012/10/06