内容説明
川端、三好、久保田、三島、中上、太宰、岡本、松本、谷川、谷崎、中里達11名の近現代の文士達の筆跡の、尋常ならざる謎のような筆蝕(書きぶり)の諸相が、「悪」という一語に表記している。書は文学である―思いもかけない命題に肉迫する石川九楊、最新の書字(筆蝕)論。
目次
第1章 妖婉、鬱滞の世界―川端康成『雪国』
第2章 「〓(しんにょう)(〓)(ちゃく)」の世界―三好達治『測量船』
第3章 あっけらかんの小粒世界―久保田万太郎句集『草の丈』『流萬抄』『流萬抄以後』
第4章 虚構の現実化と現実の虚構化―三島由紀夫『憂国』
第5章 神話・子宮の森の物語―中上健次『枯木灘』
第6章 「啄」から広がる世界―太宰治『人間失格』
第7章 終ることなき蠕動運動―岡本かの子『生々流転』
第8章 妖にして怪―松本清張『ゼロの焦点』
第9章 世界・愛・人間―谷川雁『わが沙漠』
第10章 両性具有の―谷崎潤一郎『春琴抄』
第11章 死中の生、虚無の中の真実―中里介山『大菩薩峠』
附章 書は文学である
著者等紹介
石川九楊[イシカワキュウヨウ]
1945年福井県生まれ。京都大学法学部卒業。書家。京都精華大学名誉教授。著書に『書の終焉―近代書史論』(同朋舎出版、サントリー学芸賞受賞)、『近代書史』(名古屋大学出版会、大佛次郎賞受賞)『日本書史』(名古屋大学出版会、毎日出版文化賞受賞)ほか(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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gtn
27
市ヶ谷の自衛隊駐屯地で一席ぶった後、自死した三島由紀夫。自衛隊が天皇のために決起するなど、自分自身さらさら思っておらず、自ら描いた「切腹自死戯曲」を演じてみせたのみとの著者の想像に同感。それはさておき、三島の書は「習字」の域を出ていない。学校教育に「律義に従った」に過ぎないと著者。時代、書に対する無関心等様々な理由があろう。著者は指摘していないが、三島が官僚出身というのもあるのでは。起案を作成する際、文字を崩さず、楷書体で分かりやすく記述することが求められる。私も公務員の端くれなのでよく分かる。2024/02/06
takao
3
ふむ2024/05/10
Go Extreme
2
妖婉、鬱滞の世界―川端康成『雪国』 しんにょう・ちゃくの世界―三好達治『測量船』 あっけらかんの小粒世界―久保田万太郎句集『草の丈』『流萬抄』『流萬抄以後』 虚構の現実化と現実の虚構化―三島由紀夫『憂国』 神話・子宮の森の物語―中上健次『枯木灘』 「啄」から広がる世界―太宰治『人間失格』 終ることなき蠕動運動―岡本かの子『生々流転』 妖にして怪―松本清張『ゼロの焦点』 世界・愛・人間―谷川雁『わが沙漠』 両性具有の―谷崎潤一郎『春琴抄』 死中の生、虚無の中の真実―中里介山『大菩薩峠』 書は文学である2024/03/01
skr-shower
1
他地区図書館本。拾い読み。”悪”とは個性あふれるか。太宰は息継ぎが多いような。三島は端正な。谷崎は大谷崎って感じ。2024/05/16
神戸山
0
昭和の文学者十一人の書(の書きぶり)を俎上に、各人の文学(の核)に迫る九楊さん。今冊も余人を以っては代え難い技芸を発揮して飽きさせない。お見事としか言えない。舌を巻く。 それにしても、だ。映画批評の蓮實センセーといい書の九楊さんといい、正しく本当のことしか言ってないのに、読後 気持ちよく癒やされないのは徳のなさか。(いえなに 心根の卑しい読書子一人だけなのかも....…知らんけど)2024/04/25