著者等紹介
松田雅子[マツダマサコ]
元岡山県立大学教授。九州大学大学院文学研究科博士課程中退。研究分野、イギリス文学、カナダ文学
松田寿一[マツダジュイチ]
北海道武蔵女子短期大学教授。筑波大学大学院教育研究科修士課程修了。研究分野、アメリカ詩、カナダ詩
柴田千秋[シバタチアキ]
福岡大学非常勤講師。福岡大学大学院人文科学研究科修士課程修了。研究分野、イギリス文学・現代英語圏小説(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
133
分厚さと重さで指と腕が痺れてきても、仕事以外の時間は読み続けた。何が私を惹きつけて離さなかったのか。毒なのか、哀しさなのか、物語の運びなのか、よくわからない。中年の終わりにさしかかっていそうな主人公の意識は、子供の頃や若い頃のあちこちに飛ぶ。現在形で語られるから、その場面にひたってしまう。少女仲間からの強要、イジメ、蔑み、痛み。それは大人の女たちでも同じこと。嫌いなくせに、いないと困る。寄りかかり合う。それが男達と違うところ。男は女をもっと傷付けるけれど、別れれば今はどこにいるかは考えないから。2017/02/14
まふ
106
カナダ国内で終始した女性のビルトゥンクス・ロマン(?)。イレインは昆虫学者の家に生まれ、兄も宇宙学者。トロントの町で育つが、少女時代、遊び仲間のキャロル、コーデリア、グレースからいじめを受け、危うく命を落としそうになるが、彼女らと付き合うことをやめて少しづつ成長し、絵画に目覚めてプロの画家になる。その間、学生だったジョー、絵の先生のジョセフなどとの恋愛を経てついにカナダの女流画家第一人者になる…。⇒2024/11/06
NAO
74
成功した女流画家が回顧展のため故郷を訪れ過去の日々を回顧する。ビー玉のキャッツアイを握りしめいじめに耐えた日々、子どもの世界に影を落とす大人たちの存在、そしていつしか逆転した立場。成功したのだから過去のことなどもうどうでもいいようだが、主人公は何度も心の中で女友だちに呼びかけ続ける。そして、ついに彼女にとっての最悪な場所に行って、過去の自分のわだかまりをすべて解き放つ。それは、彼女にとって、どうしてもしなければならないことだったのだろう。静かで圧倒的で、でもさすがアトウッドと思わせる凄味のある内容だった。2017/03/02
mii22.
57
600頁近い重量感あるこの作品を、女性読者として読むことができる特権に幸せを感じる。それほど女性にとって揺さぶられる小説だ。画家として成功し回顧展を故郷で開催することになったイレインの半生が、過去と現在のエピソードで繋がれていく。思春期の女子の成長過程、イジメや支配を受けた少女時代から、恋人との関係、親兄弟とのかかわり、女性としての仕事や子育て..すべての女性に共通する、通過儀礼とも言えるようなエピソードのどこかに少女の自分、大人の自分を見つけ出し、のめり込むように読んでいた。素晴らしかった。2017/07/15
りつこ
45
画家として成功したイレインの半生が語られる。少女時代にいじめに遭いその傷が大人になった今も疼く。いじめの首謀者であった少女とは高校生になってからも関係は続き、ある時から立場が逆転する。子ども時代の閉塞感や、自分が有利に立った時に沸き上がる残酷さなどがリアルでぞくっとくるが、決して陰鬱なだけではない。幼少期の想い出は風景や遊びなどを軸に色鮮やかに描かれ美しい。思い出すことすら禁じていた場所を訪れたイレインが達する境地が胸を打つが、この後も人生は続きここが終着点ではないのだろう。静かだけど凄みのある物語。2017/02/16