内容説明
国家は「平和のために」戦争を起こし、犠牲となった人びとをたやすく切り捨てる。旧日本軍毒ガス製造工廠・大久野島。そこで働いた労働者・学徒の戦後を追う、棄民たちの記録。
目次
傷痕
抹消
証言
棄民
忘却
毒ガス傷害に関する研究と現状
忠海病院 ただいま折り返し点
「大東亜戦争」の爪跡―大久野島の実態
隠蔽された毒ガス棄民
増補新版『毒ガスの島』刊行にあたって
Poison Island
著者等紹介
樋口健二[ヒグチケンジ]
1937年長野県富士見町松目生まれ。報道写真家。日本写真芸術専門学校副校長。日本写真家協会会員。世界核写真家ギルド会員。日本広告写真家協会学術会員(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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流言
42
大久野島自体についての記述というよりも毒ガス研究で後遺症を負った人達にフォーカスしており、自分が期待する内容とは違ったがこれはこれで興味深い内容であった。現在『ウサギの楽園』として観光地としてメジャーになっている大久野島を知っていると毒ガス研究が行われていたのは遠い過去の話のように感じてしまうが、今でもその後遺症に苦しんでいるという事実がまさに怨念のように読者に響いてくる。国家に命じられるままに行われたことがこうした深い爪痕を残しているのを実感すると、現代においても『知る』という努力を欠かしてはならない。2016/04/18
更紗蝦
15
大久野島の毒ガス製造のことを知ったのは、同じ著者による『これが原発だ―カメラがとらえた被曝者』 という本がきっかけでした。廃墟となった毒ガス製造施設が草に覆われている写真は、東南アジアの遺跡を連想させますが、一緒に収録されている毒ガス患者の爛れた皮膚の写真や証言の記録が、この本が一般的な廃墟写真集とは違う、「国家による犯罪の記録」であることを突きつけてきます。自然に時間が過ぎるだけで、国家による犯罪が風化し、いずれは「そんな犯罪などなかった」ということになってゆくのかと思うと、その罪深さに慄然とします。2015/09/10
てくてく
9
ウサギを触れ合える島として近年では知られている大久野島の、戦時中に行われていた毒ガス兵器作業に従事せざるを得なかった人々が、毒ガスによる被害をこうむりながらもなかなか救済されないことを写真と証言でアピールしている。軍の管轄下に置かれたために自分たちが何を作っているのかはっきりと知らされず、また軍人ではないために救済からもれてしまうというまさしく「棄民」を描いている。これは戦時中に限ったことではなく、今も同じようなことが行われるのだろうと思った。2018/03/11
豊里友行
3
棄民ってなんだろう。 戦争で消費されるってなんだろう。 まさに戦前の今こそ毒ガスの島の歴史証言のこの書を読んでほしい。2015/07/08
yukia
1
大久野島での毒ガス製造の証言として立派な本だと思う。(ただし本書の政治思想は偏重があることに、客観的に読まなくてはいけない。) 毒ガス製造に携わった学徒動員を含む多く人々が認定されず後遺症で苦しんだ事実に胸を痛める。 令和という時代を迎えて1冊目がこの本であることはとても重い。祝福ムードであるけれども、過去には戦争がありお国のためと犠牲になった人達やその子孫の懸命な働きの上、今本を読むことのできる時代があることを肝に銘じようと思う。 かつて地図から消された大久野島の存在も世代を超えても忘れずにいてほしい。2019/05/03