内容説明
プロテスタント諸国の盟主スウェーデン王グスタフ・アドルフの戦死で七歳にして女王となり、一八歳にして親政をはじめるやめざましい能力を発揮して三〇年戦争を終結させたクリスティナ。英明な彼女がデカルトを招聘してまで学びたかったものは何だったのか?突然の退位とカトリックへの改宗は、デカルトの影響によるものか、それとも単なる気まぐれか。独立不羈の英雄的精神は、コルネーユの悲劇に登場するヒロインをも彷彿とさせる。デカルト、コルネーユと謎にみちたバロックの女王。三巨星をめぐり、カッシーラーの省察は冴えわたる。
目次
第1部 デカルトとコルネーユ(心理的、道徳的親近性;悲劇概説)
第2部 デカルトとスウェーデン女王クリスティナ(デカルトとクリスティナの改宗;一七世紀における「普遍神学」と自然宗教の問題;一六世紀と一七世紀におけるストア主義の復興;デカルトの情念理論と思想史におけるその意義;クリスティナ女王と一七世紀における英雄の理想)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
roughfractus02
7
原著のデカルト論の部分訳が本書だが、3つの名のネットワークから17世紀の思惟形式を取り出す著者の方法が堪能できる。デカルトは私(cogito)を普遍的懐疑から捉え、コルネイユの劇の人物たちは自己観察による客観化によって情念すらも観念として捉えた。17世紀的人物の明晰さを求める思惟形式を抽出する著者の「象徴的類似」の方法は、デカルトを招聘した女王クリスティナがコルネイユ的人物を実人生で演じたという仮説を作り、彼女の突然の退位とカトリック改宗という歴史の謎に対し、宗教を客観化する理神論的明晰さという解を導く。2019/05/03
左手爆弾
3
超一流の哲学者がやると、思想史もキレてキレまくる。デカルトを遡上に載せるために、同時代の劇作家コルネーユと、彼の影響を強く受けたとされるクリスティナ女王との関係に注目する。一見すると時代が同じだけで直接的な関係はなさそうな人々を、作品の技法やテーマといった細やかなものに注目することで露わにさせていく手際は圧倒的である。根底にあるのは「英雄」である。デカルトの省察は懐疑の中から英雄的に蘇り意志の力で勝利するというコルネーユ的な英雄像に重ねられる。2017/03/02