内容説明
狼に変身し、野原を駆け巡り、動物をむさぼり食ったと告白する男。特殊な薬を体に塗りこみ、魂だけが分離して魔女集会に参加していた女。彼らの体験談は真実か、それとも悪魔の謀略による幻覚なのか。「狼憑き」「変身」、「魔女の脱魂」の問題を巡って肉体と魂の不可分、神と悪魔の関係をも含み、近世の悪魔学者の間で、キリスト教世界観を揺るがす激しく危険な論争がくりひろげられた。
目次
『妖術師の狼憑き、変身、脱魂について』
ニノーとボダン―悪魔学者たちにとって「変身」とは
引用、剽窃、黙秘―先行文献とニノーの戦略
狼男とその目撃者―「狼憑き」なる事実はいかにして構築されたか
狼男、あるいは人間と動物との境界
狼に関する物語
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
k
1
当時の権威を否定する文書もあるのだな。根本は同じだが。2022/02/06
志村真幸
0
1615年にフランスで出版されたジャン・ド・ニノーの『妖術師の狼憑き、変身、脱魂について』は、悪魔学・魔女論の理論書としてベストセラーとなった。1990年にフォントネイ・サン・クルー高等師範学校の「妖術の批判的歴史研究」チームが復刊した。 約80ページが原書の翻訳。ニノーは狼憑きを否定する立場から執筆しており、神や幻影といった観点から論を進めていく。しかし、おもしろいのは、みずからの論とは裏腹に、しばしば狼憑きの実在を信じているかのような記述があらわれるところだ。17世紀人の心性として実に興味深い。2021/08/29