出版社内容情報
コンピュータサイエンスの先駆的科学者が、幅広い視点で日本語の表記・入力問題を捉え直すシリーズ第2巻。文書の処理効率を飛躍的に高めたタイプライタと日本語の入力方式の変遷を、認知科学・人間工学といった学際的視点で論じる。
第四部 文章入力作業の歴史と人間工学
第 VII 章 文書入力技術の歴史的展開
1 文書化社会への道と入力法
1.工業社会の進展と植字機の進歩
2.タイプライタの発明
3.機構の進展
4.遅々とした受容
5.事業拡大に伴うタイピストの誕生
6.政府機関への導入
2 タイプライタ入力法の発展
1.初期における入力速度への認識不足
2.文字鍵盤方式タイプライタと索引型タイプライタ
3.シフト方式と複式鍵盤
4.タッチ・タイプ法の出現
5.タッチ・タイプ法の浸透
3 レミントン・タイプライタの人間工学的不備
1.鍵盤の重要性の推移
2.“Qwerty”配列の起源
3.文字配列の改良に関する初期の提案
4.ドボラク式簡素化鍵盤の出現
5.DSKの認識
4 DSK配列の人間工学的特徴
1.タイプ作業とDSK
2.DSKに対する疑惑
3.QwertyからDSKへの転換訓練
4.DSKが広まらなかった理由
5.DSKのその後
5 タイプライタと社会
1.女性の社会的進出に与えた影響
2.女性タイピストの昇格と勝利
3.Mrs. Longleyの正体に関する混乱
4.ビジネス環境の変化
5.日本では
6.教育や研究に及ぼした影響
7.タイプライタと散文形式
8.速記について
第VIII章 キーボード作業の人間工学
1 キー文字配列の最適化
1.DSK以外の試み
2.ニケルズの最適化手法
3.キーボードの画一化と労働障害の問題
4.標準化の問題
2 キーボードの大きさと形状
1.電子化時代の新しいキーボード
2.キーボードの大きさ
3.手首や前腕のストレスを減らすキーボード
4.自由度を高くしたキーボードのいろいろ
5.キーそのものの機能を高めるくふう
3 特殊用途向きのキーボード
1.同時打ちキー
2.速記入力用キーボード
3.同時打ちキーの人間工学
4.指先の動きを用いるキーボード
5.片手入力用キーボード
6.仮想キーボード
4 ヒトに合わせた入力作業の環境づくり
1.作業姿勢とキーボードの形状との関係
2.作業を楽にするファーニチャ
3.タイプ作業の快適化を意図した小道具のあれこれ
4.デスクフリー入力用キーボード
5.音声入力
第五部 日本文入力と認知科学
(コラム)レンジファインダー
第IX章 日本文入力技術の歴史的展開
1 カナ文字タイプライタ
1.カナタイプライタの始まり
2.英文タイプライタを流用したカナタイプライタ
3.簿記用タイプライタを流用したカナタイプライタ
4.電信用から事務用・一般用へ
5.そのほかのカナ文字キーボード
2 第2次大戦後のカナ配列の研究
1.海上自衛隊方式
3 ローマ字書き日本文用タイプライタ
1.英文タイプライタの利用
2.日本文用タイプライタへの模索
3.第2次大戦後におけるタイプ速記導入の試み
4.録音メディアと文書作成
5.表記法の問題
6.国語政策の不在
4 漢字かな混じり文用のタイプライタ
1.漢字を打てるタイプライタの始まりは中国文用全文字配列型
2.「邦文タイプライター」
3.索字に相対アドレス処理を必要とした全文字配列型
4.小型化のくふう
5.漢字テレタイプライタ
6.中国文入力における漢字の指定法2例
5 2ストローク入力方式とその変遷
1.2ストローク入力法の原理とニモニック漢字コード
2.無連想漢字コード
3.Tコード
4.機械式2ストローク・タイプライタ萌芽
5.電動式2ストローク・タイプライタの試作
6.コンピュータ時代になって
第X章 日本文入力法の認知科学
1 文章入力(タイピング)の人間科学に向けて
1.「楽で自然な」とは何か
2.タイプ作業と脳の機能
3.右半球主導の処理の仮説
4.異なる作業中の脳波の測定と標準作業
5.統制課題作業中の脳波
2 2ストローク入力法と脳波
1.2ストローク入力法
2.連想コードと無連想コード
3.Tコードによる入力作業中の脳波
4.その他の発見
3 漢字コードによるタイプ入力の本質
1.ポーズナーの展望
2.コード入力作業の共立性
3.β波消滅の理由
4.「良貨」は「悪貨」に及ばず?
第XI章 疲労,ストレス,労働障害と現代のライフスタイル
1 情報社会とOA病
1.タイピストの職業病
2.入力業務と人間の本性
3.ストレスとその生理学的影響
4.OA病の変遷
5.VDT障害
2 精神的要因
1.対立する見解と疲労学
2.知的労働のテーラー方式化
3.オフィス作業におけるストレス
4.神経性疲労の症状
5.社会的な視点をとってみると
【著者紹介】
◆著者
山田尚勇(やまだ ひさお)
1930年東京生まれ。台湾育ち。1953年東京大学工学部電気工学科卒業。1956年米国ぺンシルバニア大学修士,1960年同博士課程修了。工学博士(Ph.D.コンピュータ・情報科学)。米国IBM ワトソン中央研究所研究員,ペンシルバニア大学コンピュータ・情報科学科准教授を経て,1972~1991年東京大学理学部教授。1988~1996年学術情報センター(現・国立情報学研究所)研究開発部長,同副所長。1996~2001年中京大学情報学部教授。(東京大学・学術情報センター名誉教授)。
著書:『漢字民族の決断』(共編著,大修館書店1987),Certain problems associated with the design of input keyboards for Japanese writing, in: W. Cooper (ed.), Cognitive Aspects of Skilled Typewriting, pp. 305-407, Springer-Verlag, 1983他。
論文:Regular expression and state graphs for automata, IRE Transactions on Electronic Computers, Vol. EC-9, No.3 1960 (McNaughton & Yamada), Real-time computation and recursive functions not real-time computable, IRE Transactions on Electronic Computers, Vol. EC-11, No.12, 1962,他多数。
研究分野:オートマトン・形式言語理論,Tコード(無連想打鍵方式による日本語入力)開発等の日本語表記・入力に関する自然言語・情報科学・認知科学・ヒューマンインタフェース学および脳科学。
2008年,死去。
◆監修者
岡留 剛(おかどめ たけし)
1988年東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻博士課程終了。同年NTT基礎研究所に入所。2001年から2003年にかけて(株)国際電気通信基礎技術研究所(ATR)の経営企画部に在籍し,その後,NTTコミュニケーション科学基礎研究所主幹研究員を経て,現在,関西学院大学理工学部教授。博士(理学)。大学の研究室に在籍以来,日本文入力の認知的側面や人間の情報出力過程・調音運動の解明・形式言語の学習・センサデータマイニングなどの研究に従事してきた。人間の運動制御,実世界セマンティックス,ユビキタスコンピューティング・時空間データマイニングならびにテキストマイニングの研究分野に興味を持つ。