内容説明
本書のテーマは「わたしという他者」である。ドイツの教養小説を対象とするが、小説の主人公たる主体の発展に焦点をおくのではなく、主体を超えた構造を浮き彫りにする。人間は世界という意味連関へと生み出される。それでは主体は世界という織物を織るものなのか、それとも織物の図柄にすぎないのか。つまり、教養小説の「わたし」に実体があるのか、それとも、主観を超えた、世界を構成する構造が主体に「わたし」と語らせているのかを問う。
目次
序論 私という記号:ラファエロの頭蓋骨あるいは旅行することの問題―ゲーテ『イタリア紀行』をめぐって
素朴文学?情感文学?―シラーのエッセイをめぐって
ヘルダーリンの『エンペドクレースの死』における「Ich」―「Ich」の消滅による新たな「Er」の獲得?
ジャン・パウルと自我の構造
叙情詩の変容に関する覚書―若いハイネの場合
無神論者ケラーによる聖人伝
鏡と自伝―『詐欺師フェーリックス・クルルの告白』におけるセクシュアリティーの問題
カフカを読む
魔法使いの弟子―アイヒマンをめぐって
ハンス・アイスラーの『ヨハン・ファウストゥス』を巡る論争
モノと言葉