出版社内容情報
争いは、進歩や発展の原動力か?回避・解決すべき課題か?――
人間とは争う動物である。もちろん、人間以外のすべての生き物も、自らが生き残るために、そして子孫を残すために、同種内で、および他の種の生き物と日々争っている。それはふつう「生存競争」と呼ばれる。しかし、人間にとっての争いは、やはり特別な意味合いを有している。人口が爆発的に増加し、南極を除く地球の陸地のほぼ全体に生息域を広げ、そして高度に発達した国家と社会を形成した結果、人間は、国家と社会の枠組みの中で、および広く地球環境の中で、多種多様な争いを経験している。それは、食と性をめぐるたんなる「生存競争」という次元にとどまらない、複雑な様相を呈している。現代世界は、争いに満ちているといっても過言ではない。争いは、進歩や発展の原動力であると同時に、回避あるいは解決すべき課題でもある。
本書には、教育学、心理学、文化人類学、動物行動学、共生学等、人間科学のさまざまな専門分野から争いというテーマにアプローチした成果が収められている。第1部では、学校、野猿公苑周辺、そして裁判といった様々な制度や空間における争いが考察されている。第2部では、日系ブラジル人やインドネシア、ベトナムを対象として、研究者が調査研究の対象としている人々における「争い」をいかに発見するのか、そしてそのことが、対象の人々のより深い理解にいかにつながるのかを知ることができる。第3部では、災害復興、家族・恋人間の暴力、オセアニアの伝統文化を事例に、私たちが争いからいったい何を学ぶことができるのか、考えを巡らせる。
「争う動物」である人間は、他の存在との共存や共生をいかに実現することができるのか。本書はこの根源的な問いに対する人間科学からの挑戦である。
目次
はじめに
第1部 争いの場
第1章 時として泥沼化する保護者対応トラブル ―教師と保護者の争い
第2章 現場を共有することで生じるサルと人間の軋轢
第3章 公判で争う―法の想定を科学的視座から考える
第2部 争いの発見
第4章 日本とブラジルを往還する家族の生活とコンフリクト
第5章 主食の変化にみる「争い」 ―インドネシア・パプア州における糖尿病の事例から
第6章 感染症という闘いと共生
第3部 争いからの学び
第7章 争いとしての災害
第8章 闘争後の闘争―トラウマティックな関係性の再演と回復
第9章 伝統文化をめぐる争い
目次
第1部 争いの場(時として泥沼化する保護者対応トラブル―教師と保護者の争い;現場を共有することで生じるサルと人間の軋轢;公判で争う―法の想定を科学的視座から考える)
第2部 争いの発見(日本とブラジルを往還する家族の生活とコンフリクト;主食の変化にみる「争い」―インドネシア・パプア州における糖尿病の事例から;感染症という闘いと共生)
第3部 争いからの学び(争いとしての災害;闘争後の闘争―トラウマティックな関係性の再演と回復;伝統文化をめぐる争い)
著者等紹介
栗本英世[クリモトエイセイ]
大阪大学大学院人間科学研究科・教授。奈良県生まれ。1980年京都大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。修士(文学)。国立民族学博物館助教授等を経て、2000年大阪大学大学院人間科学研究科助教授。2003年から同教授。社会人類学とアフリカ民族誌学を専門とし、南スーダンのパリ人と、エチオピア西部のアニュワ人を対象とする長期のフィールドワークに従事。個別社会に関する狭義の民族誌的調査研究を継続する一方で、内戦や民族紛争、難民、食料安全保障、人道援助、平和構築と戦後復興といった領域に研究テーマを拡大し、取り組んでいる
ゲルゲイ,モハーチ[ゲルゲイ,モハーチ]
大阪大学大学院人間科学研究科・准教授。ブダペスト(ハンガリー)生まれ。2010年東京大学大学院総合文化研究科博士後期課程単位取得退学、2018年大阪大学博士(人間科学)。大阪大学大学院人間科学研究科助教を経て、2018年から同准教授。医療人類学、科学技術社会論(STS)を専門とする。15年以上にわたり、北海道を主な調査地とし、慢性疾患の治療を可能にする身体と医療技術との相互作用を民族誌の手法を用いて探究してきた。近年、北ベトナムと西日本の山岳地帯でフィールドワークを展開している。薬物植物の栽培および研究開発の現場を中心に、創薬の草の根運動とも連携しながら、医療の環境負担をめぐる難問の人類学的研究に取り組んでいる
山田一憲[ヤマダカズノリ]
大阪大学大学院人間科学研究科・講師。岐阜県生まれ。2007年大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程修了、博士(人間科学)。日本学術振興会特別研究員(京都大学野生動物研究センター)を経て、2010年より現職。一般社団法人日本霊長類学会理事。一般社団法人ニホンザル管理協会監事。岡山県真庭市に生息する勝山ニホンザル集団と兵庫県洲本市に生息する淡路島ニホンザル集団を対象としたフィールドワークを継続してきた。サルの豊かな個性を明らかにするために、子ザルの行動発達、社会行動の地域間比較、野外での認知実験、深層学習を用いた個体識別プログラムの開発などの研究に取り組んできた(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
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K.H.
いざなぎのみこと