内容説明
「土地からの不吉な出立を試みるぼくの誕生日は、にわか雨によって祝福された…」時は第二次大戦中。少年の成長、そして旅立ちが、動乱に揺れるカリブ海の島バルバドスの命運と重なる。彼はなぜ土地から離れなければならなかったのか?生まれた場所から移動することで初めて知ることとは?エドワード・サイードやスチュアート・ホールらが重視するポストコロニアル思想の原点。バルバドス出身の作家ジョージ・ラミングの小説、初めての全訳。
著者等紹介
ラミング,ジョージ[ラミング,ジョージ] [Lamming,George]
1927年、バルバドス生まれ。1953年、小説『私の肌の砦のなかで』でデビュー。最も重要なカリブ文学の作家のひとり
吉田裕[ヨシダユタカ]
1980年、岐阜生まれ。東京理科大学専任講師。専門はカリブ文学及び思想、ポストコロニアル研究、文化研究(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケイ
128
カリブの島々の文学。この作品(英領)の前に読んだ『黒人小屋通り』(仏領)と共通するのは、この地から離れて語る人に成りうるに、教育があったということ。そして、白人のように無慈悲で身勝手なことをする同胞への戸惑いと嫌悪。無知~ignorance~は無垢で純粋で、白人達は彼らがそうであることを望んだ。この作品では、ignoranceであるがゆえにしてしまう安易な理解の仕方が、彼らのするとりとめのない会話から聞き取れる。騙されていた者達に、何かを信じ込ませることはなんと容易なことか…。行間から感じられる郷愁。2019/08/29
ヘラジカ
42
初めてカリブ文学に触れる者にとって最適な作品だったに違いない。詩的な言葉によって紡がれる作者の自伝的物語。鮮明に描写される島の環境やコミュニティ、ラミングの目を通した冴え渡る心理的考察によって、狭小な世界からカリブの歴史を"体感"できる、まさしくヴィヴィッドというに相応しい作品だった。貧しさや白人との権力関係などは、当たり前だがアフリカ文学で描かれるものに通じるものがある。もっとポストコロニアル思想を勉強したいと思った。2019/07/23
Mark.jr
1
カリブ海のバルバドスを舞台に、作者の分身と思わしき主人公が、故郷を離れるまでを描いた小説です。ポストコロニアル系統の文学の多くと同じように、この作品も非常に政治色が強いですが。凝った文体に、語り手の主人公の存在感が霞む程、コーラスの如く多くの登場人物の声が入り混じる構成は、フォークナーなどのモダニズムの影響を感じさせ、単純な私小説の枠組みからはみ出しています。バルバドスという小国の作品を翻訳した出版社に感謝。2020/12/05
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