内容説明
彼女が罪を犯したとすれば、その唯一の罪は、この娘をあまりに思いを込めて愛し過ぎたことだった。『郵便配達は二度ベルを鳴らす』の著者ケインの、映画・ドラマ化されたノワール文学の傑作。大恐慌の巨大都市郊外で、役立たずの夫を追い出した「独居妻」が奮闘する愛と金と逸脱の物語。米国大衆の夢と欲望を描くロサンゼルス都市小説の古典。本邦初訳。
著者等紹介
ケイン,ジェイムズ・M.[ケイン,ジェイムズM.] [Cain,James M.]
1892‐1977。アメリカ東海岸メリーランド州アナポリス生まれ。ジャーナリスト、短編作家、雑誌編集者として東部で活動、脚本家として南カリフォルニアに移住。大恐慌時代のロサンゼルスを舞台にした不倫殺人を映画的技法を駆使して描いた中編小説『郵便配達は二度ベルを鳴らす』がベストセラーとなる。1930年代の「タフガイ小説」(後の「ノワール小説」)の代表的作家として、古典期ハリウッドのフィルム・ノワール諸作品に影響を与えた
吉田恭子[ヨシダキョウコ]
1969年福岡県生まれ。京都大学人間環境研究科博士課程退学後、ウィスコンシン大学ミルウォーキー校にてクリエイティヴ・ライティングを専攻しPh.D.(英文学)取得。現在、立命館大学文学部教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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星落秋風五丈原
17
ミルドレッドの娘へのいたい程への愛が全然本人に届かない。2021/04/24
maja
16
大恐慌後下の南カリフオルニア郊外都市、あてにならない夫を見捨てたミルドレットは自立の道を探っていくが、溺愛する娘に強い憧れとコンプレックスを抱きながら卑屈なまでに自分を装うのである。モンティの育ちからくるものを嗅ぎつける彼女。したたかにさらに増長する娘。彼女は自分の店を持つという大きな成功を手にするが、彼女の葛藤は新たな局面を迎える。暴風雨のなかモンティの邸宅に乗り込んでいく場面など彼女の愚かさというか逞しさというか迫力ある。2021/06/10
bapaksejahtera
11
1930年代からWW2辺り迄の米国加州が舞台。広域土地所有で財を得たが、不動産開発業者にババを掴まされ、大恐慌で定収の無くなった中流上層の男に嫁いだ女性が主人公。遊び暮らす夫や気位だけの婚家に愛想をつかし、彼女は働きに出る。しかし女の仕事は容易に探せず、ようやく彼女は食堂のレストランの女給として働き出す。彼女は料理の能力と才覚を以て次第に収入を増やす。正に寡婦の成功譚ではあるが、男運の無さと性格の合わぬ娘との葛藤に苦しむ。翻訳が悪いのか意味の通じない所があり、本当にノワールの傑作なのか疑問を感じつつ読んだ2023/12/20
OHNO Hiroshi
3
なんでこうも娘に翻弄されるのか。成功をおさめたのに。パワフルなのに。2021/11/11
uchiyama
2
素晴らしかった…。今更ですがケインを追い始め、当初はこんなものが読めるとは思ってもみなかったので、この小説の強さをどう説明していいのかちょっと言葉を失います。ベストセラーの多くは、キャラクターや物語に痛快さがあったりするけど、それって、書かれた社会の道徳や常識に適ってるからなだけで。反してケインの登場人物や物語は、その種の痛快さに逃れず、複雑さや曖昧さや矛盾を孕んで造型されてて、社会や人を見つめる観察力と、単純化に抗いながら人物に「歌わせる」技術に溜息。1人の女性の半生がこんなにサスペンスフルになるとは。2024/09/24