内容説明
「あたりかまわず朱と咲きいでよ」と自らを鼓舞し、脇目もふらず作歌にいそしんだ歌人、葛原妙子。子どもの頃、大森の祖母の家に行く時には何か冒険に出かけるような気持ちになった。かつての病院の敷地内にあった、広い平屋住宅。周囲には枇杷の大樹が緑の葉をさかんに茂らせていた。孫である著者から見た葛原妙子とは―。戦後短歌史を代表する歌人と、その家族の群像がここにある。
目次
大森の家
祖母の生い立ち
軽井沢のこと
朱と咲きいでよ
室生犀星と祖母
まぼろしの枇杷
著者等紹介
金子冬実[カネコフユミ]
1968年東京生まれ。旧姓勝畑。早稲田大学大学院で中国史を学んだのち、東京外国語大学大学院にて近現代イスラーム改革思想およびアラブ文化を学ぶ。博士(学術)。1995年より2014年まで慶應義塾高等学校教諭。現在、早稲田大学、東京外国語大学、一橋大学等非常勤講師。1996年、論文「北魏の効甸と『畿上塞囲』―胡族政権による長城建設の意義」により、第15回東方学会賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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buchipanda3
95
「おばあちゃんはカジンだから…」、という言葉に惹かれて。歌人・葛原妙子の孫である著者が祖母の姿を思い起こしながら、その生涯と人となりを綴ったエッセイ。文章が柔らかく、妙子のことを歌人、そして祖母として優しく敬意を持って描いているのが伝わってきた。外部からは知れない一面なども。でも妙子は裏表のない人だったのだろうなと。それは引用される短歌からも感じられた。長女を想ったというレモンの歌。現実とは違う物語かもだが、そこに込めた気持ちは正直なものと思えた。著者の言う背後のもう一つの目で見た感性をもっと味わいたい。2023/10/06
rinakko
9
記憶を手繰りよせ思い出を綴りつつ、祖母と祖母にまつわる事柄を、今いる場所から振り返り、あらためて眼差そうとしているのがよかった。「おばあちゃん」らしさのない祖母の、稀有な才能と強烈な個性。美しい歌を生み出すことと引き換えに、何かをあえて切り捨てていたような人柄のこと。追慕の情とともにある、ひやりとした感覚。祖母に名付けられたというエピソードと、その由来探しの章が好きだった(有名なレモンの歌の章も、室生犀星との交流の章も好き)。そして、あとがきにある「和解」という言葉が沁みる。2023/09/14
らくだ
5
幻視の歌を詠むことで現代でもよく知られる歌人・葛原妙子の孫が書く、祖母・葛原妙子についてのエッセイであり伝記的な要素もある本。とても面白くほとんど一気読みだった。葛原妙子は山尾悠子が好み、彼女が好む歌人たちの中にいる存在というイメージはあったが、まさかこんなに美にこだわり、自由に生きた人だったとは。おばあちゃんらしくないおばあちゃん。女人らしくない女人。芸術を愛する家系の文化的豊かさというものが、田舎の普通の家に育った私にはまばゆく、興味深い。特殊な家族史を読むようで面白かった。2024/03/31
月音
3
歌人・葛原妙子のお孫さんが綴る思い出の記。本書の前に、歌人本人の随筆集、塚本邦雄による選歌・鑑賞文を読む。本人の文章より孫の方が歌人の素顔、作歌の背景、私生活の様子が明らかであり、塚本の解釈と実際の歌の背景との違い、それらのギャップが非常に面白い。歌に秘めた恋、歌材となった人々や出来事など、「あの歌はそうだったのか」と驚くこと多数。複雑な生い立ちが強すぎる自我を育てたのか、苛烈な生き方は自身と家族を傷つける。「朱と咲きいでよ」「随所に朱となれ」という言は、⇒続2025/04/06
takao
1
ふむ2024/10/13
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- 和書
- 針灸経穴辞典 (第2版)