内容説明
詩の極北に屹立する詩人・左川ちかの全貌がついに明らかになる―。萩原朔太郎や西脇順三郎らに激賞された現代詩の先駆者、初の全集。すべての詩、散文、書簡、翻訳を収録。編者による充実の年譜・解題・解説を付す。
目次
詩篇(一九三〇年;一九三一年;一九三二年;一九三三年;一九三四年 ほか)
翻訳詩(SLEEPING TOGETHER(ハリー・クロスビー)
室楽(ジェイムズ・ジョイス)
男・手風琴・雪の破片(ハーバート・リード)
詩の一群(チャールズ・レズニコフ)
花が咲いてゐる(ブラヴィック・インブズ) ほか)
著者等紹介
左川ちか[サガワチカ]
詩人・翻訳家。1911年生まれ。北海道余市町出身、十勝地方の本別町で幼少期を過ごす。庁立小樽高等女学校卒業後に上京。10代で翻訳家としてデビュー。詩・小説・評論の翻訳を残す。1930年に筆名を「左川ちか」と改め詩壇に登場する。詩誌『詩と詩論』『椎の木』『マダム・ブランシュ』などで活躍した。将来を嘱望されたが1936年に死去。享年24
島田龍[シマダリュウ]
東京都中野区出身。立命館大学文学研究科日本史専修博士後期課程単位取得退学。文学部助手、甲南大学中高教員を経て現・立命館大学人文科学研究所研究員。専門は中世~近現代における日本文化史・文学史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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buchipanda3
114
北海道生まれ、昭和初期の詩人の全集。詩篇の冒頭からグッと掴まれる。淡々としながら剥き出しな言葉が投げつけられ、思いも寄らぬ言葉の組み合わせに翻弄。そして締め括りに放心。「煙草の脂で染つた指がうごめく闇を愛撫する」「夢は切断された果実」、夜の鳥、心臓、花葩、焔、和のゴシック感が堪らない。陽の光を追う目線、光と影、その先へ生と実感を求める心を描いたか、様々な自然の濃い色に染まったものたち。散文作は柔らかく詩文との対比が印象的。彼女が随筆に記した詩の世界を紡ぐ多角な魚の眼線、作品の未完成感に共感。装丁も良い。2022/08/20
HANA
77
夭折したモダニズム詩人の全集。詩、翻訳詩、散文、翻訳が収録されている。昭和初期のモダニズムはタルホしか親しんだ事はないのだが、著者の詩はやはり言葉遣いというか乾いた硬質な言葉の選び方が彼を連想させるなあ。天然より人工物を愛するような彼に比して、著者の詩はどことなく天然の鉱石の透明感を思わせるようなところがあるけれども。散文は当時の詩人の付き合いを思わせて微笑ましく、無くなる直前の日記は痛ましい。この辺全集らしく著者の様々な面を窺える。著者は小説を書くつもりらしかったけど、是非読んでみたかったものである。2022/09/14
吉田あや
52
思考の断片を力強くコラージュするような左川ちかの詩篇たち。『北国の陸地はいま懶く そして疲れている。(中略)其処の垣根は山吹の花で縁取られ、落葉松は細かに鋏んだ天鵞絨の葉を緑に染めてゐる』雪に埋もれた深い眠りの地で、曇天の鬱々しさを切り裂くように思考を一気に跳躍させ、生命の息吹で彩る鮮やかさ。北海道出身の左川にとって雪は幻想的なだけの存在ではないが、厳しくも美しい季節の移ろいに人生を重ね、死の別つ足跡を偲び、生きることへの灯火を見つけようとする。(⇒)2023/12/04
tonpie
33
北海道の小樽高女を卒業した17歳の少女が兄を頼って上京し、貯金局で非常勤の仕事をしながら詩作と翻訳に熱中する。やがて北園克衛に認められ発表の場を得るが、1936年、2.26事件の年に癌で死去。24歳だった。作品は、自然と人間の描き方が一読、宮沢賢治を思わせる。 「突然電話が来たので村人は驚きました。/ではどこかへ移住しなければならないのですか。/村長さんはあわてて青い上着を脱ぎました/(略)/さようなら青い村よ!夏は川のようにまたあの人たちを追いかけてゆきました。(秋の写真)」↓2022/10/30
かもめ通信
22
まずは通読。この先何度も戻ってくる本ではあろうが、とりあえず初読の感想を。印象深かったのは、都会にあって故郷を思う「冬の日記」。オルダス・ハクスリーの「イソップなほし書き」もとても面白く、ヴァージニア・ウルフの「いかにそれは現代人を撃つか」(評論)は、書いたウルフもこれを訳そうと思ったちかも最高!だ。ちかの兄が、伊藤整に彼女との交際を勧めた話や、萩原朔太郎とちかとの縁談を断った話など、当時の文士たちの交友関係が垣間見られる点もまた興味深かった。2022/06/29