内容説明
初めてのヨーロッパ旅行で出会い親交を温めてきたドイツ人夫婦に誘われ、苦しい講師生活のなか気持ちがすれ違っていた夫と共に訪れたカンボジアのヴィラ。数日過ごすうち、夫とドイツ人夫婦の間に小さな諍いが起こり…「夏のヴィラ」。夫の希望で仕事を辞め、変わらない毎日を過ごすなかでの楽しみは、子供を送迎するときに見かける赤い屋根の家に住む空想をすることだった。そんななか、親友が開業したイタリアンレストランで出会った若い男性とのささやかな会話が引き起こした心のさざ波に…「まだ家には帰らない」。人と人、世界と世界の境界線を静かに描いた八つの短編を収録。
著者等紹介
ペクスリン[ペクスリン]
白秀麟。1982年仁川生まれ。短編小説「嘘の練習」(2011年京郷新聞新春文藝)でデビュー。2015年、2017年、2019年文学村若き作家賞、2018年文知文学賞、李海朝文学賞、2020年現代文学賞、韓国日報文学賞
カンバンファ[カンバンファ]
姜芳華。岡山県倉敷市生まれ。岡山商科大学法律学科、梨花女子大学通訳翻訳大学院卒、高麗大学文芸創作科博士課程修了。梨花女子大学通訳翻訳大学院、漢陽女子大学日本語通翻訳科、韓国文学翻訳院翻訳アカデミー日本語科、同翻訳院アトリエ日本語科などで教える。韓国文学翻訳院翻訳新人賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちゃちゃ
121
繊細なレース糸で心の痛みを編み込んだような、哀切な響きを放つ短編集だ。8話に共通するのは、さまざまな“隔たり”。人と人、性別、世代、階層、文化や風土…。埋められない距離、取り戻せない時間に、途方に暮れて立ち尽くす不安や疎外感、孤独や絶望。そして癒えない心の傷と、それらを呑みこんで諦念を抱えて生きる人間への愛おしさに溢れる。透明感あふれる鋭敏な感性で捉えられたそれらは、静かに読み手の心を揺さぶり共感を呼び覚ます。それらはかつて、我が心をかすめていったあの痛みだったかもしれない、という深い気づきとともに。2022/08/18
buchipanda3
120
様々な年代、様々な立場の女性の生き方が落ち着いた目線で丁寧に描かれている。そこには性別や困窮などの差異による不自由さが垣間見えるが、安易な同情などはなく、ただその生き方を真っ直ぐに見つめている。でもそれゆえに現実的であり、より深く彼女らの日々の姿が沁み込んできた。何よりも選んだ人生の痛みに著者が共感しながらも、目の前を生きる歓び、それが微かなものでも尊いと思わせる文章がとても良かった。ある時期に同じ地点を過ごす者と心を通わせる刺激の大切さも。素直な甘さの尊さ「ブラウンシュガー・キャンディ」がお気に入り。2022/07/29
天の川
65
8つの短編は繊細で、心の琴線に触れる。特に好きだったのは「ブラウンシュガー・キャンディ」。孫達の世話をするために息子のパリへの転勤に同行した老女。気品と教養ある彼女は、孫達のために自分を犠牲にした。成長した孫達に必要とされなくなった彼女が遠い異国で出会ったピアノの音色。ピアノが弾きたい…ピアノの持ち主の老人との言葉の壁のある会話、心が少しずつ通う様。彼女は家族には黙して語らない。死後に残された日記の断片からの孫娘の想像。静かな映画を観ているように感じた。他の作品も悔恨や葛藤が細やかに描かれとても良い。2022/06/03
azukinako
63
昨年のkbooksfesで出会った初めての作家。8つの短編のすべてに胸を捕まれる一瞬があった。読み終えた後にまた目次を見てすべての一瞬を思い出す。私は「大雪」が一番心に残った。一番肝心なことは話せず、聞けない母娘。ラストで彼女(娘のほう)が出産直後に夫に堰をきったように語る母との話。説明できないけれど、身体が反応する小説だった。翻訳も素晴らしいのだが、それでも、原文を読みたくなる小説。2024/01/16
ぶんこ
57
初めての作家さんでしたが、静かな余韻に浸っています。全体を通して、どんなに親しい人でも、心の隅っこは分からなくて、自分は一人だということ。それはどうしようもないこと。特に「ブラウンシュガー・キャンディ」のおばあさんに感情移入してしまい、切なくて寂しくて、でも言葉は通じなくても、心がちょっぴり繋がった人とのひと時を得られていたと知って、孫娘も嬉しかったでしょう。私も嬉しかったです。2022/07/19
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