内容説明
幻視の女王、魔女、黒聖母、ミュータント…こうした呼び名を剥がしつつ迫るその全貌。いよいよ存在感を増す葛原妙子を通して戦後の短歌史を問い直す名著の新装版。
目次
葛原妙子への入口
『橙黄』誕生
身体表現と戦後
近代という宿題
前衛短歌運動との距離
「原不安」の発見
キリスト教という視野
「魔女」と「幻視の女王」
「伝統」創造の時代
晩年の峰
補論 語り残された「自我」
著者等紹介
川野里子[カワノサトコ]
1959年生まれ。千葉大学大学院修士課程修了。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。評論に『幻想の重量―葛原妙子の戦後短歌』(第6回葛原妙子賞)『七十年の孤独―戦後短歌からの問い』(書肆侃侃房)、『鑑賞 葛原妙子』(笠間書院)など。歌集に『太陽の壺』(第13回河野愛子賞)、『王者の道』(第15回若山牧水賞)、『硝子の島』(第10回小野市詩歌文学賞)、『歓待』(第71回読売文学賞)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ゆう
17
感想がまとまらず、短期的にはまとめることが不可能なので、メモとして概要を残します。①短歌という日本文学のフェミニズム批評として、出色の面白さ。「敗戦」によりそれまでの価値の止揚/更新を求められた「伝統」としての短歌。そこで新しい表現として主に男性によって待望し召喚された「女歌」。その二重にも三重にも抑圧された状況下、葛原妙子は何と闘い、何を歌っていたのか。「幻視の女王」「現代の魔女」「前衛短歌の倍音」という美しく魅惑的な言葉に閉じ込められていた彼女を、川野里子の筆が日本文学史のど真ん中へと解放する。2021/08/28
かふ
14
十章に補遺とインタビュー。章の冒頭に葛原妙子の代表歌が上げられており、その頃の作風から葛原妙子の歌を紐解いていく。これは葛原妙子の歌を知るのも良かったし短歌の鑑賞にとても勉強になる。葛原妙子と言えば塚本邦雄によって「幻視の女王」とキャッチコピーされて有名になるのだけど、葛原に付き纏う「魔女」とか「母性」とか「巫女」と言った男たちが勝手に解釈した女性というものに反発したようだ。それは葛原の身体性から来るもので、塚本邦雄らの観念的な前衛短歌とは一線を画すものだった。葛原の短歌は現実の裂け目から覗く歌が多い。2023/02/21