目次
作業着の色
フレコン
安全靴
鉄の音
3Lのズボン
小湊線
きっと他人であった
シャボン玉
無影灯
ユーラシア
太陽を抱えるように
神様のレゴ
脚を一本
木製パレット
薄いほほえみ
ご安全に
重心
ひとさじの試薬
女性用更衣室
汚れの形
Sサイズ
工事許可証
男の身体
猫飼う予定
抵抗をしない鳩
小さな水面
昇温
著者等紹介
奥村知世[オクムラトモヨ]
2015年より短歌結社「心の花」に所属。第29回歌壇賞次席。第2回群黎賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
あや
19
工場勤務の日々と妊娠、出産、育児、家庭の日々を詠む。解説に書かれているように、仕事に対しても、家庭に対しても、一定の距離が感じられる。内房線、小湊線が出てくるので、千葉に在勤されていらっしゃるのかもしれない。工場勤務というだけでモチーフにオリジナリティがある。著者は石川不二子さんの愛読者と解説に書かれていたので、私も石川不二子さんの作品が読んでみたくなった。また読みたい本の幅が広がった。ただ「工場」という簡素なタイトルの歌集に工場の中の重層的な作業、仕事、日常が詠まれている所がこの歌集の魅力と言えよう。2023/05/27
ロア
19
『先芯が鉄から樹脂へ替えられて安全靴はやや軽くなる』『カラマーゾフを読みつつ思う三人目産んでもやはり男だろうか』『女子社員増えて軍手のSサイズ在庫の数を増やしてもらう』『どんぐりが通貨単位の商店に息子から買う虫の死骸を』『自宅でのskype会議の声は漏れ夫はきっとひややかな部下』『金型の昇温時間長くなり実験室の季節が変わる』この歌集を読んでる間中、日刊工業新聞のリケジョ欄が常に左脳のあたりに浮かんでました(*´ω`*)2022/03/13
qoop
9
職場と家庭に於いてなし崩しに規定される女性の有り様を正面から受け止め、昂ることなく知的に歌へと落とし込んでいく。深部の高い熱量を感じざるを得ないものの、それを漏れ出さずに題材を淡々と切り取っていく手際こそ歌人の技量なのか。定型詩の凄みを強く意識した。/軍手にはピンクと黄色と青があり女性の数だけ置かれるピンク/まさに腹を切られつつ交わす会話なり「お名前はもう決まりましたか?」/吐瀉物にまみれ「抱っこ」と泣く息子どちらかといえば理性にて抱く/私だけ部下を持たない組織図は北極のような空白がある2021/10/25
toron*
5
実験室の壁にこぶしの跡があり悔しい時にそっと重ねる ある覚悟静かに示すヘルメット血液型を大きく書いて 忘れ物を私の中にしたような顔で息子が近づいてくる もう既にほとんど内勤になってしまったとはいえ、自分も男性が9割の現場にいたので、その雰囲気というか、切り取り方に非常に惹かれた。ダクト、ドレン、ミドリ安全などの用語。また「ご安全に」の美女のポスターの溶け込んでいる違和感にはかなり思い当たる部分があった。肉親と同じ温度で詠んでいるからか、無機物に対しての愛が浮き上がって見えるのも良かった。2021/06/26
アンパッサン
4
整然と、生活を、仕事を描写する姿勢に感服する。短歌のすごさは「視座」だと思うが、こう読み進めてみると、いかに目の前の事象から飛び立てるかが妙技なんじゃないかなあ、などと。作者もまた卓抜した技前の持ち主だった。短歌というジャンルに少し興味を持ちだしたので、これからも注目したい。2022/12/25