内容説明
離婚によって心の支えを失った男。フランス料理のシェフもまた、フランスでの修業時代に大切な人を失っていた。パリで傷つき、リスボンへと向かう旅での発見、そして、日本で得た安住の地。深い心の傷を負った男ふたりがたどり着いたのはやはり料理だった。15歳少女の一時保護によって浮き彫りになる女たちの絆。家族を超えた繋がりを描く「あさぎり」も併せて収録。
著者等紹介
上村渉[カミムラワタル]
1978年生まれ。静岡県御殿場市出身。2008年「射手座」により文學界新人賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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アキ
85
書肆侃侃房出版。成原亜美・装幀。表紙の写真に誘われ読む。上村渉初読。『うつくしい羽』フランス料理を介して二人の男のつながりを描く小説。ポルトガルのエヴォラで食すスープと豚肉のアレンテージョ風が美味しそう。レストランrestaurerの意味が、“胃の腑の弱りたる者はみな我がもとに来たれ、われ汝を癒さん”とあるパリのルーブル宮殿近くで始めたスープ屋とは初耳でした。フランス語「回復させる」を意味する動詞らしい。『あさぎり』女たちの絆と家族のありようを描く物語。うつくしい羽を眺めつつそっとなでるように読み終えた。2021/06/11
けろりん
49
早くに両親を亡くし、転勤族の子ゆえ幼馴染みを持たず、結婚にも失敗した、希薄な人間関係しか築けずにいた三十代半ばの主人公が、半ば強制的に働く事になったレストランで、癖の強いオーナーシェフや同僚達、常連客との関りを通して、食にまつわる家族との思い出、未来への記憶を得てゆく表題作。女手一つで弁当屋を切り盛りし、二女を育て上げた女性が、職場体験に来た女子中学生の家庭環境に危惧を抱き、手を貸そうとする『あさぎり』。どちらも普通の人々に、ある気付き、あるお節介心が芽生える様子が淡白ながら諧謔味を帯びた筆致で描かれる。2021/03/26
かんらんしゃ🎡
39
作者もお初で、版元も聞いたことない。「株式会社 書肆侃侃房」しょしかんかんぼうと云う。「書」と「房」しか読めないぜ。しかもカンカンボウって、ステテコちょび髭カンカン帽は植木等だぜ。★『うつくしい羽』人生に投げやりになった男が勤めた仏料理店。飾りのないまっすぐな文章が静かだ。『あさぎり』のDVと弁当屋の家族。列車あさぎり号のように誰もが自分の前を通り過ぎてゆく。これも読み応えあり。★うん、この切っ先鋭いレビューにレビュワー大賞を! お呼びでない?…こりゃまた失礼しました!!! 2021/03/05
Sato
12
主人公は早くに両親を亡くした上、離婚し職も失った男性。不本意ながら地元のフランス料理店で働くこととなるが、そこのシェフもまた大切な人を亡くし、世知辛い人間関係や移ろいやすい自らの評価に不満を持つとっつきにくい人物だった。深い心の傷を負った男ふたりは仕事終わりに酒を呑みながら、少しずつ距離を縮めていく。自らの仕事に自信や手応えを感じることができれば、自ずと自己肯定感が増し、他人にも寛容になれる。何もかも失った人物が、周りに支援されながら食の記憶と共に成長していく姿が爽やかに描かれている。2021/05/28
けんさん
7
『”食”がつなぐ絆、いつからでもやり直せる!』 家庭に問題を抱えた主人公たちが、”食”を通じたつながりをきっかけに、自身の生き方を見つめ直していく、2つの物語。著者の地元である御殿場を舞台に繰り広げられる出来事の、どことなくのんびりとした雰囲気が心地よかった。2021/05/19