内容説明
塚本邦雄の短歌をやわらかく、わかりやすい言葉で紐解く、塚本の薫陶を受けた著者ならではの一冊。塚本ファンはもちろん、塚本初心者の読者にこそ届けたい。塚本邦雄の短歌の魅力「美しい空白」を味わうために―。
目次
プロローグ 美しい空白―短歌への扉
見えない心を言葉に―魂のレアリスムと句跨り
少女を詠んだ歌―甘くなくて怖い
言葉遊びの復活―エキスを搾り出し掬い取る
哲学辞典「、」と「。」とメリハリ―見立ての技法
読者への贈り物―省略された動詞がもたらす歌の魅力
積み重ねられた言葉の魅力―広義の本歌取り
詩歌の魅力―本歌をたどるたのしみ
花と眼の歌―鮮烈なイメージ
生き生きと甦る日常―世界を知る喜び〔ほか〕
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ゆう
27
とても面白くかつ難しかったです塚本邦雄の歌。妙な物言いかもしれませんが、この歌はどこで歌われているのだろうかという疑問が最後まで頭を去りませんでした。言語空間が異質だということなのだと思う。読み終えたばかりの「三四郎」の評論集に出てきた、野々宮くんの実験装置についての言葉が通奏低音のように響いていたのは、塚本邦雄の言語空間が自然には見えないものを見るための、人工的な装置であるという読解が可能だという誘惑があるってことだと思うんだけど、まだちょっとよく分からない。2022/01/24
tom
22
なんと難しい俳句。パッと本を開いたら「アヴェ・マリア、人妻マリア 八月の電柱人のにほいに灼けて」「ディヌリパッティ紺青の楽句絶つ 死ははじめ空間のさざなみ」などはまだまし、「木犀少女うつろう影は硝子越し古今集恋よみびとしらず」「使途一切不明なれど一瓶の酢をあがなえり妖精少女」「芍薬置きしかば真夜の土純白にけがれたり たとうれば新婚」なんだ、これは。と思いながら読んだ塚本邦雄の歌。訳わからず読んだのだけど、こうやって書き写してみると、よい句に思えてきた。もう少し読んでみようか。でも、難解だから注釈が必要。2022/04/01
テイネハイランド
22
先日、塚本邦雄の選集を読んだ際に、読書メーターでこの本を知り、図書館から取り寄せて今回読みました。自身も歌人の尾崎まゆみさんが、塚本の歌を紹介しているのですが、紹介の仕方が柔らかくかつ丁寧で、味があります。実用性ゼロの詩の場合、無粋な紹介だとその価値が台無しになるためうまく書くのは力量が要りますが、その点で基準を満たしている本ではないでしょうか。例えば、P.46 「海底に夜ごとしづかに溶けゐつつあらむ。航空母艦も火夫も」の丁寧な鑑賞文を読めば、そのあたりはわかってもらえるのではないかと思います。2021/04/05
かふ
18
「ゆきたくて誰もゆけない夏の野のソーダ・ファウンテンにあるレダの靴」短歌の扉はそこにない神話世界を開いてくれる言葉の暗証番号のようなものなのかもしれない。秘密のキーワード。「レダの靴」でギリシヤ神話に誘いソーダ・ファウンテンという当時のモダニズム(現代性)の出会いが生み出すデートのような気分を感じ取れればいいのか。塚本短歌に織り込まれている言語世界を解き明かす(漢字の旧字もその入口として呪術の世界なのだ)入門書だろうか?古典和歌の雅な言語遊戯の系譜(藤原定家とか)なのだろうか?すぐれた塚本短歌の入門書。2024/12/12
loanmeadime
11
俳人や歌人の言葉の使い方を、例えば大阪平野を穿ち大坂層群を抜いて領家花崗岩に達する深さとすれば、私が話したり書いたりするそれは、アスファルトをうっすらと汚す黄砂の薄膜かと言うようなことは置いといて、気になった短歌を揚げると、"いたみもて世界の外に佇つわれと紅き逆睫毛の曼殊沙華"に並んで揚げられた坪野哲久作の"曼殊沙華のするどき象夢にみしうちくだかれて秋ゆきぬべし"。彼岸花のイメージに引っ張られて、西行法師"その如月の望月の頃”を思い浮かべたりしました。著者の作品も当たってみようと思います。2025/04/21