内容説明
どこからともなく降り積もる“文字”が日常を脅かしてゆく。家が、街が、やがて文字に埋もれ…表題作「文字の消息」。全身が少しずつ砂糖へと変わる病に侵された母と、その母を看取る娘の物語「砂糖で満ちてゆく」。入り江に静かにたたずみ、災いをもたらすとされる巨大な船に翻弄される町を描いた「災厄の船」。静かに寄せてくる波のように、私たちの日常を侵食していく三編の物語。
著者等紹介
澤西祐典[サワニシユウテン]
1986年生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程修了。2011年、「フラミンゴの村」で第35回すばる文学賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
タカラ~ム
20
ものすごい衝撃だった。表題作「文字の消息」は街が次第に『文字』に浸食され、人々の暮らしばかりが人の心までも蝕まれていく恐怖が、S夫妻からフミエさんに宛てた手紙の形で記される。文字に生活が侵されること以上に、人間の醜さや弱さがもたらす狂気や恐怖で背筋が凍える。「砂糖で満ちていく」は身体が徐々に砂糖に変わる難病の母を介護する娘の話。介護という社会的な問題の中に見え隠れする背徳感や娘が目を離したときに砂糖と化した母を襲う恐怖が艶かしくもあり、おぞましくもある。その他「災厄の船」の計3編を収録した短編集。2018/06/19
ココロココ
18
初読みの作家さん。インスタで紹介されていて、気になったので読んでみた。文体がとても綺麗だった。『砂糖で満ちてゆく』がとてもせつなかった。感想を書くのが難しいので、このへんで。一つ言えることは、軽い気持ちで読み始めた自分は間違っていたということです。2020/02/24
そのとき
12
じりじりと蝕まれていく隙のない恐怖、閉塞感。思いもしないものに苦しめられる展開、終始不穏な空気感。そして最終話。大事なのは、目を向けなければいけないのは、過去でも未来でもなく「今」であり「ここ」なのだ。本質を、その核を見失なわないでいることはとても難しい。ああ読み終えて線を繋ぎ直してみたくなる一冊。装画の線描の如く繊細な世界観、面白かった。2019/04/10
toshi
12
いかにも三崎亜記が書きそうなシュールな世界での物語。 年老いた夫婦が知り合いの女性に宛てた手紙だけで構成されている。文字が降る(正確には知らない間に増えているらしい)世界での出来事が、その降ってきた文字を一文字ずつ貼り付けて作られた手紙に綴られてゆく。 物語が進むにつれ、相手の女性がどんな女性か徐々に明らかにされてゆくが詳細は最後まで不明のまま。 それは一方的な手紙の内容だけで構成されるという手法上仕方ないと思うし、また物語にはあまり関係の無いことであるからだと思うけれど。 (→続く)2018/08/02
tom
10
短編三作。一作目は、不思議な物質でできた「文字」のパーツがテーマ。気が付いたときには、黒い文字の断片がそこらあたりに溢れ返っている。次第に、人の生活は押しつぶされる。文脈から推測すると、人が思うことが文字になり、その文字がパーツに分解されて、溢れて来るらしい。そして、家の中は小さな埃まみれになる。屋根にも降り積もり、やがて家は押しつぶされ、住んでいた人も埋もれてしまうという物語。2作目は、人の体が砂糖になってしまう病気がテーマ。使われない部位から砂糖に変わっていく。この発想はすごい。不思議な短編集。2018/11/17
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