出版社内容情報
【おれの生きかたを、笑え。】
この歌集は、とかくしんどいこの世を生き抜くための、
最も力弱く、最も魅力的な武器だ。
(石川美南)
[自選短歌五首]
生きかたが洟かむように恥ずかしく花の影にも背を向けている
見ていれば違っただろう「つる草の一生」というドキュメンタリー
職歴に空白はあり空白を縮めて書けばいなくなるひと
異性はおろか人に不慣れなおれのため開かれる指相撲大会
この夏も一度しかなく空き瓶は発見次第まっすぐ立てる
虫武 一俊[ムシタケ カズトシ]
龍谷大学社会学部卒。
2008年夏に短歌を始め、ラジオ番組や雑誌企画への投稿を重ねる。
2012年、うたう☆クラブ大賞(短歌研究社)。
目次
1(それなりの春っぽさ;持久走 ほか)
2(口ばしるなよ;はるかな吐息 ほか)
3(工場へ行く;金を数える ほか)
4(春を行く;青 ほか)
著者等紹介
虫武一俊[ムシタケカズトシ]
1981年3月生まれ。大阪府育ち。龍谷大学社会学部卒。2008年夏に短歌を始め、ラジオ番組や雑誌企画への投稿を重ねる。2012年、うたう☆クラブ大賞(短歌研究社)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
わっぱっぱ
40
最近、と言っても以前を知らないで言うのだが、短歌界隈では“だめなやつ短歌”が花盛りだ。そこまでだめじゃない人までがだめな自分を詠っている(気がする)。『羽虫群』もそれ系だろうと踏んだら、そうでもありそれだけでもなかった。だめだめ濃度は最強レベル、「歌っとる場合ちゃうやろ!」と何度も喝を入れたくなる。しかしこれが格好良いのだ。彼の歌には怒りと、それにユーモアがある。“だめ”を受け止めてそこに安んじない強さが、この歌群に光を与えている。だめな人もだめじゃない人も。読めば心に火が灯る。良い歌ってそういうことだ。2018/01/22
fwhd8325
33
いくつかの句をノートに書き留めました。閉塞した社会、しかし、31文字は、必ずしも絶望ではなく、そこに生きている息づかいを感じます。“死にたいと思う理由がまた一つ増えて四月のこの花ざかり”“「生きろ」より「死ぬな」のほうがおれらしくすこし厚着をして冬へ行く”啄木が自分の手のひらを見たように、現実を直視し、それを受け入れることを生活としている。“行き止まるたびになにかが咲いていてだんだん楽しくなる行きどまり”。充分に、心に響く31文字でした。2017/10/25
ふみ
31
自虐歌集として名高いので、あえてそう思わずに読む。 こういう言い方があってるのかどうかわかんないけど(そして失礼なのかもしれないけれど) 本格的よ、本格的!2018/05/29
kaizen@名古屋de朝活読書会
29
虫武一俊 短歌 いっときの関係として雨の日に硬貨を渡し傘をいただく 走りながら飲みほす水ののみにくさいつまでおれはおれなんだろう 飲み込んだ言葉がきっとあるはずのカウンセラーよ駅まで雨だ 冬の日のプールのような色だろう風呂まにこのままおれを煮出せば ドブ川に落ちたばかりのオレンジがまぶしくてまぶしくて逃げたい 川に来れば川を眺めることになりことさらになにを知りたくもない したたっていただけなのに液体と定義をされて液体のおれ #返歌 ふわついていただけだから気体だと定義してみる稀薄な空間2016/12/14
太田青磁
22
走りながら飲みほす水ののみにくさ いつまでおれはおれなんだろう・「負けたくはないやろ」と言うひとばかりいて負けたさをうまく言えない・マネキンの首から上を棒につけ田んぼに挿している老母たち・廃ビルの影うつくしくなにものにもいつしか訪れる黄金期・雨という命令形に濡れていく桜通りの待ち人として・本名をいつかあなたに教えたいその真夜中の港のにおい・二十一の小娘に頭を下げて謝りかたを教えてもらう・ににんがし、にさんがろくと春の日の一段飛ばしでのぼる階段・さびしいと思ったことのある町をとまりつつとまりバスがゆく2017/11/26