出版社内容情報
【言葉が奏でる究極の結晶】
とうめいな水の底に光る幻影は、
深い祈りが集めた光なのだと思う。
(東 直子)
[自選短歌五首]
どんなにか疲れただろうたましいを支えつづけてその観覧車
月を洗えば月のにおいにさいなまれ夏のすべての雨うつくしい
煮えたぎる鍋を見すえて だいじょうぶ これは永遠でないほうの火
ふいに雨 そう、運命はつまずいて、翡翠のようにかみさまはひとり
ぼくを呼んでごらんよ花の、灯のもとに尊くてもかならず逢いに行くさ
井上 法子[イノウエ ノリコ]
1990年7月生まれ
福島県いわき市出身
明治大学文学部卒業
立教大学大学院修士課程修了
東京大学大学院博士課程在学中
2009年 早稲田短歌会入会
2013年 第56回短歌研究新人賞次席
目次
ゆめよりも青くて
つきをあらえば
おかえりなさい。花野へ
永遠でないほうの火
めぐるときのさかなに
toi,toi,toi
かわせみのように
わたしのあとで肯いて
ミザントロープ(初期歌片)
そのあかりのもとで、おやすみ
著者等紹介
井上法子[イノウエノリコ]
1990年7月生まれ。福島県いわき市出身。明治大学文学部卒業。立教大学大学院修士課程修了。東京大学大学院博士課程在学中。2009年早稲田短歌会入会。2013年第56回短歌研究新人賞次席(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
わっぱっぱ
34
寂しむような、愛おしむような、なぐさめるような青の世界。短歌というよりは詩のようで、容易には読み解けないけれど、微細な水分が知らず触れてくる感じで好き。 抽象的な表現・重複するイメージは、そのまま閉ざされてしまいそうに繊細な作者の内界。それが、多用される呼びかけによって読み手へと開かれるとき、馴染んだ世界が新しい眺めに変わる。美しいです。2018/01/26
kaizen@名古屋de朝活読書会
26
井上法子 短歌 かわせみよ波は夜明けを照らすからほんとうのことだけを言おうか 抱きしめる/ゆめみるように玻璃窓が海のそびらをしんと映せり 波には鳥のひらめきすらも届かないだろうか海はあたえてばかり みずうみと海とがあった輝きのゆたかな抱擁をしっていた 渚から戻っておいで微笑みも雪の匂いもわすれずおいで ずっとそこにいるはずだった風花がうたかたになるみずうみに春 耳でなくこころで憶えているんだね、潮騒、風の色づく町を #返歌 台風の雨風怯えこころでも耳でも潮騒時空質量2016/12/14
ちぇけら
21
ねえきっとあなたははだか 波斯にいるという孤独の狩人よ。冬の青よりも夏の青のほうがあまりに青くて青いので、わたしはそれらを燃やそうとした。貼っては剥がした水玉のシールから水がこぼれるように、ないたよるに。折り紙の鶴よ、燃える赤で、するどく戦慄け。「煮えたぎる鍋を見すえて だいじょうぶ これは永遠でないほうの火」永遠のように遠いところからきこえるこえがまっすぐで、濃霧でにごった朝をかきわける。それは、ずっと昔、わたしがつぶやいたことばに似ていた。わたしたちをつつみこむあめは優しいから、そっと傘をとじよう。2019/05/20
糸くず
9
東直子さんも解説で述べているとおり、短歌を読んでいるというより現代詩を読んでいる感覚に近い。短く研ぎ澄まされた言葉で書かれた超現実的な風景は閉じた世界になりがちだけども、井上さんは原風景としての「ふるさと」を目指して書くことで、歌の世界に広がりを持たせている。「望郷は砦ではなく剥きだしの目に海よりの風がしみるよ」堅牢な〈砦〉の中ではなく、〈剥きだしの目〉でもって感じ取る。そのことが井上さんの短歌の美しさを支えている。「煮えたぎる鍋を見すえて だいじょうぶ これは永遠でないほうの火」2019/08/21
ディディエ・メラ
9
初々しい言葉と少し演歌っぽい言葉とがカオスのように同居する。前者には強く惹かれつつ、後者の演歌っぽさが時々鼻につく瞬間を否定出来ず。書籍で読んで気に入ったらKindleでも購入しようかと思ったのだけど、そこまでモチベーションが維持出来ず…。もっと言葉がこなれて来るのをそっと待ちたいと思う。くれぐれも演歌っぽさが熟達することのないように、と祈りながら。2018/08/27
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