内容説明
香り高い歌が拡がる。天使の都から日本のオフィスまで、現代の言葉が世界を駆け抜ける。
目次
生命線
天使の都へ
活字以前
家族の食卓
うわずみ
遠浅の恋人
時の残像
十月、十日
プールサイド
全世界色見本帳
夏の遺産
ネピアティッシュ
NR
薔薇色のジャム
ダーウィンの母
ワーキングマザー・ブルース
flow,float
離職の日
著者等紹介
天道なお[テンドウナオ]
高校時代より作歌を始める。大学在学中に早稲田短歌会に入会。2000年短歌研究創刊800号記念臨時増刊「うたう」作品賞候補作。2001年波涛第二回大西民子奨励賞。2002年マルチメディア動画配信『テノヒラタンカ』に参加。2003年~未来短歌会、彗星集所属(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
83
天道なおの第1歌集。就活の学生時代の終り頃⇒就職⇒恋愛⇒結婚⇒出産⇒子育てと会社生活の両立⇒離職のそれぞれの過程を歌に詠んでいる。表題のNRは、ノー・リターンの略。通読すれば、彼女の四半生のドラマのようでもある。歌は一部に英語のアルファベットが混じったりはするものの(それとても現代短歌では、もはやごく普通のことだが)、言葉も表現も平明である。自らの感情を直情的に歌い上げるのではなく、一歩引いたところから眺めるもう1人の自己がいるかのような歌いぶり。そのように常に理知的で冷静なのだが歌全体には抒情が漲る。2013/12/28
kaizen@名古屋de朝活読書会
52
天道なお 短歌 とめどない日々は水水は日々かな快速電車の窓に流れる 約束をやぶってごめん惨惨とやさしい雨が降る場所にいる スコールが路面を洗う裏路地にスベテノ夢ヨハジケテオクレ 落ち葉を重ねるようにシャツ脱げば雨の匂いが窓辺に充ちる 仮名文字に似る雨と聞くこの国の文字は千の象の隊列 濡れた髪拭わぬままに横たわる夜半の憂いは水の香帯びて p10ニルヴァーナ聴いたあとには悲しみが張り巡らされた空だと知った 返歌 動脈瘤曲名だとは気がつかず楽譜発注中古だけだし2016/12/14
ふみ
29
好きな歌もショックを受けた歌もたくさんあるのだけど、妊娠とか出産って詩情を超えた何かがある気がする。2017/12/31
松本直哉
16
端正にして静謐な言葉で、丁寧に紡がれる歌の数々。もはや戻らずの意の略語を歌集のタイトルとし、結婚 転居 妊娠 出産 離職と 後戻りのない道を歩みつつ その道程に歌の花束を。なかでも 出産までの日々を詠んだ「十月、十日(とつきとおか)」の連作はしみじみ心に響きます。「ひっそりとヒトのかたちにしずもりて熟れゆく果実わが宮にあり」ひらがなの多い柔らかな上の句 熟れゆく果実というなまめかしくも美しい暗喩 子の誕生を寡黙に待ち望む静かな女性の姿が鮮やかに浮ぶ。待つ という人間の行為の 尊さ。2013/12/10
おはぎ
12
あまりよい感想ではないのかもしれないが、歌のスタンスや語尾の表現に俵万智を彷彿とさせるものを一部感じた。技巧に寄らない素直な歌は特に。「十月、十日」と題された一篇が、子を宿した母体の変化を繊細に捉えていて、特に印象に残った。「この土地に夫以外の知己はなく無印のカーテン揺れる休日」「わが内に湯浴みしている一粒を何と呼ぼうか春雨の降る」「コットンのねむりのなかでおさなごがやさしく握る虹の先っぽ」2023/02/15