内容説明
晴れた日は、愛用の杖を携えて、人知らぬ裏町や寒駅を飄然と散策する。雨の日は、皿や茶碗を撫でたり眺めたりして日を過ごす。「人というものは「愛する心」を失わないうちは、いかなる境遇にも堪えて行かれるものなのである。人に対しても物に対しても、また自然に対しても―」傑作「東海道品川宿」を中心に近代随筆の最高峰と謳われた素白随筆を精選する。
目次
序の章(ゆく雲)
1の章(東海道品川宿(一~十三)
素湯のような話―南駅余情序章 ほか)
2の章(素白夜話―逸題;壷 ほか)
3の章(歌人長嘯子;日本文学に於ける漫画の創始)
著者等紹介
岩本素白[イワモトソハク]
国文学者、随筆家、早稲田大学教授。1961年没
来嶋靖生[キジマヤスオ]
歌人、「槻の木」編集代表、現代歌人協会常任理事。早稲田大学政経学部卒業。1996年、「おのづから」三十首で第32回短歌研究賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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月音
6
明治中期、東海道品川宿で少年時代を過ごした著者。そこは、維新の奔流が押し流した江戸の残滓のごとく、にぎわう宿場町の裏に娼家や投げ込み寺、貧民窟、囚人の病檻を澱ませていた。陋巷にあっても濁らない少年の心に映じた風景、人々。幼くして、これほど冷静に細やかに大人の世界を観察できるのかと目を見張る。「只今帰りました」「お帰りなさいまし、ご苦労さまで御座いました」と、丁寧に互いをいたわる老夫婦、染井吉野と違い、香り高かったという御殿山の桜の話など、昔日の面影を宿してゆかしく清々しい。⇒続2025/01/04
nyanlay
4
『岩本素白』という作家がいたことすら知らず恥ずかしく、あとがきを読むと、途中から随筆家に変更したようで。自分が品川に親近感あるため手に取った次第ですが、なかなか興味深い。品川宿だけなら他にも作品あると思うけど、明治大正の話しで、時代小説の江戸時代が小説の中だけでない、現実にあったんだなと不思議な感覚です。2022/11/07
アメヲトコ
3
明治中期、まだ江戸時代の名残が濃厚に残っていたころの品川宿を描いた表題作をはじめ、描写の細やかさの光る珠玉の随筆集。当時品川駅のすぐ東側が海で、ホームの上から小舟で鰻をとっている人が見えたという描写には隔世の感があります。2014/09/25
みつひめ
2
ちょうど、品川に行く用事ができたので、読みかけで放置してあったのを引っ張りだして読了。シブい本の典型。ウェッジ文庫、終わっちゃったのが残念です。2013/02/28
kinaba
1
淡々2017/10/04