内容説明
ジョヴァンニ・ボッカッチョ(1313‐75)は、イタリア・ルネサンス期を代表する人文主義者の一人である。日本では俗語作品の『デカメロン』が唯一の著作と見なされ、他の作品は紹介されることがほとんどない。本書は、彼が残した多くのラテン語作品のうち、古くから読み継がれてきた女性伝記集である。偉大な女性の振る舞いを手本として示し、女性読者に美徳を学ばせることを目的として書かれた。新約・旧約聖書を始め、ギリシア神話、ホメロス作品、オウィディウスやウェルギリウスなどラテン語の古典、さらには教父やタキトゥスの歴史書などを典拠として、古代から同時代の女王に至る106人の女性のエピソードを諧謔に富んだ筆致で描き出す。カトリック的な立場で女性の美徳とされた貞淑とその反対の不貞を主要なテーマとしながらも、窮地にあっては男をもしのぐ意志の強さ、自己犠牲、潔さ、決断力で、時に夫や子供を救い、時に身内をも斬る女性たちを生き生きとつむいだ物語は、時代を超えて読者を魅了してやまない。訳者解題では、無二の親友で師でもあったペトラルカとの出会いと共同の古典研究や写本収集が本書執筆のどこに影響したかを明らかにして、ルネサンスの在り方や古典伝承の経緯をも浮かび上がらせる。本書は、自筆写本および三種の校訂版を参照し、詳細な注を施した決定訳。ラテン語原文を全文収録し、わが国で未開拓のルネサンス研究の基礎を築く“イタリア・ルネサンス古典シリーズ”の第1弾である。
目次
翻訳(原初の母エヴァ;アッシュリア人の女王セミラミス;サトゥルヌスの妻、オプス;王国の女神、ユノー;穀物の女神、シチリアの女王ケレス;ミネルウァ;キプロスの女王ウェヌス;エジプト人の女王にして女神であるイシス;クレタの女王エウロパ;リビュアの女王リビュア ほか)
ラテン語原文
著者等紹介
日向太郎[ヒュウガタロウ]
1965年、神奈川県に生まれる。1989年東京大学文学部卒業。1994‐96年フィレンツェ大学にて研究(1994‐95年イタリア政府給費留学生)。1999年東京大学大学院人文社会系研究科欧米系文化研究専攻修了、博士(文学)取得。東京大学教養学部准教授を経て、同大学文学部教授。専門は西洋古典学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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