内容説明
今ここに、中世英文学の気鋭の研究者が集い、イングランドにおける多様なナラティヴ(語り)を繙いて、言語の併用、文化交流、思想の流動、写本の伝播も含めた広義の移動という視覚から中世社会に光を当てる。第1部「聖なるものと旅のナラティヴ」では、旅行記や聖人伝など物理的な移動に関係する記述や写本の挿絵などの分析を通し、移動にどのような思想や事情が伴い、何をもたらすのかを浮き彫りにする。第2部「越境とアイデンティティ」は、ラテン語から英語やフランス語など俗語が使用される多言語社会の中で、移動がアイデンティティや文化の形成といかに結びつき、影響したのかを明らかにする。第3部「異端と正統の境界」は、歴史文書やキリスト教神学書、宗教書の緻密な解析を通して、中世人の精神的な移動の有りようを描く。第4部「マテリアリティからみる移動」は写本や初期刊本を取り上げ、書物の伝播や受容の問題を論じる。本書は個々のテーマを分断せず、各章が有機的に結びついて、ナショナリティの形成や異文化交流など、現代の課題にも豊かな示唆を与える独創的で良質な共同論集。
目次
第1部 聖なるものと旅のナラティヴ(体と心と言葉の旅―英仏版『マンデヴィルの旅行記』とイングランド像;境界を越えて旅した聖グースラークと『聖グースラーク伝』 ほか)
第2部 越境とアイデンティティ(彼我の境の想像と越境―中英語ロマンスにおける地理的移動とアイデンティティの形成;曖昧な国境―旅と自己同一性の揺らぎ ほか)
第3部 異端と正統の境界(放浪する説教者ジョン・ボール―ロラード派直前の異端;ここが無限だ、ここで跳べ―レジナルド・ピーコックと神の存在証明 ほか)
第4部 マテリアリティからみる移動(越境するメメント・モリ―中世末期のロンドン周辺における往生術写本の移動と受容;教訓的テクストの移動とミセラニー写本の文化的解釈の可能性―15世紀ノリッジの商人が所有していた2写本の新たな考察 ほか)
著者等紹介
大沼由布[オオヌマユフ]
同志社大学文学部教授。専門は中世英文学
徳永聡子[トクナガサトコ]
慶應義塾大学文学部教授。専門は書物史、中世後期英文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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