内容説明
1897年、イギリスのエジプト探検隊は、ナイル中部の失われた古代都市オクシリンコスで、ゴミの山から『トマスによる福音書』が書かれた一葉のパピルス紙を発見した。以後、陸続と発掘されたギリシア語パピルスは、その地の人々が廃棄した古典文学や聖書の断片、そして個人の手紙や実務文書など膨大な生活の記録であった。クレオパトラの死により紀元1世紀にプトレマイオス朝が滅亡した後、エジプトはローマ帝国の属州となったが、支配層をギリシア人が占めるギリシア世界であった。彼らはエジプトに同化しながらギリシア文化を拠り所とし、文字はギリシア語で記すことを決めたのである。本書は、オックスフォード大学で古典ギリシア語教授を務めた、オクシリンコス・パピルス解読の第一人者である著者が、大量の出土史料を駆使して、当時の社会と文化を余すことなく描き出す。ギリシア人の目に映るローマ皇帝、ナイル川の氾濫と農作物の収穫、市場での経済活動、現金と穀物を扱う銀行取引、厳しい徴税や徴発の制度、子供の教育に奔走する親、病気や怪我に際して助けを求めた魔術や医学など、人々の息づかいを伝えるとともに、迫害を受けた初期キリスト教のあり方や、古典作品について古典学の視点から光が当てられる。巻頭カラー口絵と、訳者による各章の懇切な要約も付し、古代世界へと誘う、わが国初登場のパピルス学入門である。
目次
エジプト発掘
ゴミの山
エジプトのギリシア人
「栄光ある、いとも栄光ある都市」
皇帝―支配者にして神
ナイル川
市場
家族と友人
詩人と学者
行政
生き残る
キリスト教と信者たち
著者等紹介
〓橋亮介[タカハシリョウスケ]
1977年生まれ。ロンドン大学キングス・カレッジ古典学科博士課程修了、Ph.D.(Classics)。現在、東京都立大学人文社会学部准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。