感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
松本直哉
19
バッハが24の調に作曲したように、50の音の一つ一つにちなんで詠まれ50音順に並べた歌が互いに響き交わす言葉の音楽に聞き入った。名高い「アンダルシアのひまわり」の歌に代表されるように、意味の重量が軽い分言葉は羽ばたいて歌い、イメージが鮮やかに立ち上がる。硬い漢語や漢字を避けた柔らかい調べ、文語調なのにユーモアのある文体に魅了されてしまう。全歌集が入手しにくく、アンソロジーで断片的に読んだだけなのだが、それでもずっと心惹かれてきたこの歌人の主な作品を、このように手軽な形で読むことができるのは大きな喜びである2025/06/12
yumicomachi
4
『モーツァルトの電話帳』完本、『なよたけ拾遺』抄、『樟の木のうた』抄、『ふしぎな楽器』抄を収録。これらは同時刊行の「♭」に収録された歌集に比べて私性から距離を置いた歌集といえ、全歌集等で親しんでいたときには短歌という楽器によって奏でられた音楽として純粋に楽しめる、大らかで軽やかな作品が多いという印象を持っていた。改めて読むと意外なほど作者の疲れや哀しみも感じられて切ない。しかし、それが作品に深みをもたらしているのだと思う。石川美南による編集ノートには新たな視点や発見があり興味深い。2025年3月1日発行。2025/03/14