内容説明
路地の奥の家には、母と、そして父がいた。やって来た人はやがて去り、ひとりになった僕はこの町と訣別し、坂のある町に移る。あたらしい歌に向かって。第54回現代歌人協会賞『二丁目通信』に続く第二歌集!
目次
1(ひと駅あるく;生壁色 ほか)
2(理科室あたり;一月八日前後のわたし ほか)
3(ぼけてもひとり;なんて悪筆! ほか)
4(みぞれ;くだらない壷 ほか)
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感想・レビュー
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qoop
3
認知症の父を介護する中で詠まれた歌。その芯にある軽み。乾いた笑いというとシニカルに聞こえるが、視点をずらすことでシリアスな状況に処しているのだろうかと思える。この〈視点をずらす〉ということが一つ、詩の源泉なのかもしれないな、とも。 /ゆるキャラのコバトンくんに戦ける父よ 叩くな 中は人だぞ/食いしばる歯のなき父はそこにいる一人息子に掴まり立ちす/二十八ページ目にしてその時が来たICUの扉が開く/学歴にも職歴にも書けぬ十九年の介護「つまりは無職ですね」(笑)/仕事せぬ男のひとり住む家の位牌ふたつが垂直に立つ2021/06/10
シロクマぽよんぽ
1
芸術選奨新人賞・寺山修司短歌賞を受賞した、藤島秀憲第二歌集。『オナカシロコ 短歌日記2019』で藤島のファンになったのだが、今作でもユーモラスで骨格のしっかりした詠みっぷりは十二分に味わえる。父の死と喪失感を詠んだ終盤は特に圧巻だ。お気に入りは「プール帰りの小学生が駆け抜けて父とわたしの影残される」、「雨どいに溜まりし水を初恋の味のごとくにすずめは飲めり」、「筆順のとおりに書いてある手紙とどきぬ菜の花忌の風のなか」。2021/07/22