感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケロリーヌ@ベルばら同盟
53
バルザックが、晩年、100篇からなるコント(小説)集の出版を企画し、書き進めていたものの、逝去により、惜しくも実現はならなかった作品群のうち、30篇は『コント・ドロラティック』に収められたが、そこからも零れ落ちた、この、"シャルル・ペロー風"、16世紀の文体を模した凝古文で綴られた『糸繰り女』は、幼い男爵に捧げられた一粒の宝石のような童話。バルザックの置き土産であり、仏文学者石井晴一氏の最後の翻訳となった作品に、夫人が挿絵を添えて出版した、成り立ちも床しく美しい一冊。2021/12/02
H2A
14
コント・ドロラティクに漏れたというペロー風の寓話。ペロー風というより完全にバルザック風。ふわふわした曖昧な浄福感よりもくっきりした現実感の法が勝っている。もちろん話はおもしろいが、子ども向けとは思えない。石井晴一が訳していた遺稿に夫人が挿絵をつけたという経緯が後書きで語られている。書店で見かけたことはないけれどリアリズムの化身バルザックの意外な側面が明らかになるかも。2021/08/23
ruki5894
13
文豪バルザックの珍しいお伽噺…ということだが、珍しいも何も、フランス文学だよねってことしかわからない。さて、この本はフランス文学者石井晴一さんが亡くなったあと、奥様が未発表の翻訳原稿に絵を描いて一冊の美しい本に仕上げた。裏表紙にはバルザックのサインが書かれている。内容はとても豊かな国の立派な国王が、魔がさしてダイヤモンドで飾り付けたいと願ったところから始まり、やがてその国に住む、誠にひっどい虐待母と息子のお話へとなってゆく。お伽噺はなぜか背筋が寒くなるようなものが多いよね。2021/07/14