内容説明
『聖書に曰く』から始まる五編の作品は、今こそ読まれるべき現代性を孕んでいる。ドイツ語圏で最も優れた劇作家の本格的紹介。
著者等紹介
デュレンマット,フリードリヒ[デュレンマット,フリードリヒ][D¨urrenmatt,Friedrich]
1921‐1990。スイスの作家。ベルン州コノルフィンゲンに牧師の息子として生まれる。ベルン大学とチューリヒ大学で哲学などを専攻。在学中に作家としてデビュー。50年代から60年代にかけて発表した戯曲によって世界的な名声を博す。晩年は演劇から離れ、自伝など散文の執筆に専念した
山本佳樹[ヤマモトヨシキ]
1960年愛媛県生まれ。大阪大学大学院言語文化研究科准教授
葉柳和則[ハヤナギカズノリ]
1963年徳島県生まれ。長崎大学大学院水産・環境科学総合研究科教授
増本浩子[マスモトヒロコ]
1960年広島県生まれ。神戸大学大学院人文学研究科教授
香月恵里[カツキエリ]
1961年福岡県生まれ。岡山商科大学経営学部准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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しゅん
18
1940〜50年代に書かれた五本を収めた初期戯曲集。三十年戦争などの歴史的題材をアイロニカルに変換した絶望的で悲壮な喜劇が並ぶが、中でも『ロムルス大帝』は白眉。西ローマ帝国最後の皇帝の怠惰な態度が最も高貴な姿勢に反転する様を描いた本作は、定められた運命の前で人はどう生きるべきかを劇構造の中で鮮やかに提示する。私が直前に読んでいた佐々木敦『未知との遭遇』と全く同じテーマを扱っていたのでちょっと驚いた。それはデュレンマットがナチスを、佐々木が3.11を背負って書かざるを得なかったがためのシンクロかもしれない。2017/04/20
Mark.jr
3
戦後スイスを代表する小説家・劇作家の一人、friedrich durrenmatt。その戯曲集です。どの作品も、基本副題に"喜劇"と着いてますが、そこに含まれているユーモアは非常にグロテスクで、容赦なく社会の不条理を抉り出しています。特に一人の女性を軸に正義とは何かというテーマを盛り込んだ「ミシシッピ氏の結婚」「老貴婦人の訪問」はそのグロテスクさ加減が顕著です。個人的なお気に入りはユーモラスさと悲惨さのバランスが一番好みだった「ロムルス大帝」。2022/05/08
wanted-wombat
2
デュレンマットの初期戯曲集。個人的に「ロムルス大帝」が秀逸。怠惰で周囲から駄目な王だと思われているロムルスであるが、その振る舞いには確固とした信念があった。現在から見れば少し王道を外した英雄譚というところだろうが、デュレンマットのアイロニックな筆致は少しも古びていない。クライマックスのオドアケルとの対峙の場面からの余韻を残した終わり方は非常に美しく、そして切ない。喜劇というのがコメディよりも悲劇に近いものだということがよくわかる。我々を扱いうるのは喜劇だけである、とするデュレンマットの魅力がつまった一冊。2013/06/20