内容説明
ロート最大の、そして最高の作品―ハプスブルク帝国の辿った崩壊の過程と、主人公トロッタ家三代の栄光と没落とを情愛豊かに、哀惜の念を込めて描く。
著者等紹介
平田達治[ヒラタタツジ]
1934年生まれ。大阪大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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まふ
125
ユダヤ系オーストリア人である著者の渾身の歴史小説。戦場でオーストリア=ハンガリー二重帝国フランツ・ヨーゼフ皇帝の命を救った功績により貴族に列せられたヨーゼフ、その子で郡長となったフランツ、さらにその孫のカール・ヨーゼフのトロッタ家3代にわたる生涯が皇帝の生涯と重ね合わせながら綴られる。多民族をカトリックという共通宗教によって束ねてきたハプスブルク家オーストリア帝国がドイツをはじめとする近代民族国家によって蹂躙されてゆく脆さが内側から眺められて大層面白く読めた。第一級の小説である。G1000。2023/08/28
NAO
57
若き皇帝を敵の狙撃から救って一躍英雄となり貴族に叙せられたトロッタ家三代の物語。広大な領土を持ちながら弱体化していく帝国の黄昏、老いさらばえる皇帝。ならば、皇帝の権威と共にあったトロッタ家もまた、帝国と共に没落していくしかない。その崩壊の背後では、何も知らぬげに明るく軽快なラデツキー行進曲が鳴り響いているのだろうか。2017/01/14
きりぱい
9
オーストリア=ハンガリー二重帝国の没落とともに描かれるトロッタ家三代の男たち。ソルフェリーノの戦いでフランツ・ヨーゼフ1世の命を救ったトロッタ少尉は、破格の恩寵を受けるも、その栄誉は心理的な自由を奪ってしまう。息子フォン・トロッタ、孫カール・ヨーゼフも、英雄の誉れを継ぐことでなにか縛られるような哀れさを感じさせ、思うように表せない父子の愛情と生き様が帝国の傾きに大きくも小さくも響きあってゆく。巻末で、同時代を生きた著者ロートの失われた祖国への想いがつまっていることを知る。2010/12/03
kero385
8
ヨーゼフ・ロートは44歳で、過度の飲酒によって半ば自死に近い生涯の終わりを迎えた作家。ジャーナリズムで培った明晰で美しい文体で数々の小説を書き、今でも読まれている。その中でも畢生の名作と言えるのが、この「ラデツキー行進曲」。ソルフェリーの戦いの視察に来た、皇帝フランツ・ヨーゼフ一世の命を流れ弾から救ったことで貴族に列せられたトロッタ一族三代の栄達と衰退に、オーストリア・ハンガリー帝国の滅亡を重ね合わせ、それを格調高い文章で描いた叙事詩とも言える傑作。最後のシーンは、読むたびに情景が浮かび涙を禁じ得ない。2023/09/13
ワッピー
5
故郷喪失のユダヤ人作家ロートが描くオーストリア帝国の滅亡。地方の新興貴族トロッタ家の三世代の主人公と皇帝フランツ・ヨーゼフ一世の関わりの中で、時代の変化とともに巨大な何かが静かに崩壊していく過程が浮き彫りにされてきます。2012/01/08