出版社内容情報
昭和の心を描く感動の書き下ろし長篇小説。
戦災によって語り難い悲運を甘受せねばならなかった一人の帰国留学生深山千蔵が、戦後まもなく引き始めた一台の屋台車。そしてそこから始まる一つの鎮魂の物語。
千蔵はあらためて目を閉じた。と、目蓋の裡に現れたのは、一匹の虫だった。それは羽化を終えたばかりの、白い蝉の幼虫だった。千蔵はこの蝉の羽化を、弟と二人で見たのだ。美しく変容した蝉の姿を見たあの時の驚きは、忘れていなかった。
それにしても、今頃になって、なぜこんな蝉の姿を思い出したのだろうか。……
ふと、心の裡に、ひとつの自問が生起した。自分はこの人生を、本当に生き直しているのだろうか。あの変容した蝉のように、此世であらためて生き直しているのだろうか。――本文より
内容説明
昭和の心を描く感動の書き下ろし長篇小説。戦災によって語り難い悲運を甘受せねばならなかった一人の帰国留学生深山千蔵が、戦後まもなく引き始めた一台の屋台車。そしてそこから始まる一つの鎮魂の物語。―
著者等紹介
東野光生[トウノコウセイ]
昭和21年(1946)和歌山県生まれ。水墨画家・作家。小説『似顔絵』(河出書房新社・芸術選奨文部科学大臣新人賞)ほか。昭和59年~60年、国際交流基金の支給を受けて、米国フロリダ州立大学客員教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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