内容説明
本書は、植民地支配の過程でエトニから強制的に国民国家へと移行される過程や、帝国と植民地との坩堝から形成される国民国家の近代世界のなかから生み出されてくる文学や文化的現象を見つめ、国民国家と文学の関係を問う。カリブ海地域やアフリカの英語圏、フランス語圏の文学や文化、アメリカ文学、日本の戦後文学、アラブ・フランコフォン文学の研究者8人が集い、国民国家=ネイションに亀裂のくさびを打つ抵抗や再編の手段としての文学、言語、民族の伝承の諸相と、18世紀から今日にいたる植民地支配の爪痕を、地域横断的に捉える。今日の、アイデンティティとネイションとの新たな捉え直しを提唱する、文学研究の画期的試み。
目次
国民国家と文学―グローバリゼーションのなかでの文学研究にむけて
第1部 ネイションを求めて―コロニアリズムからの脱却(「アルジェリア人」とは誰か?―カテブ・ヤシンにおける「ネイション」の潜勢;国民国家を希求する人びと―南アフリカ人作家H.I.E.ドローモの劇における国家観の変遷;非場所の文化―森崎和江が掘りあてた“もうひとつの日本”)
第2部 ネイションのはざまで―ポストコロニアリズムの位相(植民地主義と情動、そして心的な生のゆくえ―ジョージ・ラミング『私の肌の砦のなかで』と『故国喪失の喜び』における恥の位置;「バラよりもハイビスカスを!」―ウナ・マーソンの作品にみるジャマイカン・ナショナリズム;ヘンリー・ジェイムズとイタリア―西洋におけるエキゾティック表象)
第3部 ネイションを超えて―トランスナショナルな地平へ(海を渡る「ちびジャン」民話―口承文芸と国民国家をめぐる一考察;「奴隷舞踊」から「正体のしれない人」へ―ミシェル・クリフ『フリー・エンタープライズ』論)
著者等紹介
庄司宏子[ショウジヒロコ]
1961年生まれ。お茶の水女子大学大学院博士課程人間文化研究科比較文化学専攻単位取得、博士(学術)。現在、成蹊大学文学部教授。専門はアメリカ文学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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