内容説明
ガルシア=マルケスの再来と謳われるラテンアメリカ文学の俊英が、母国コロンビアの僻村を舞台に、今なお止まぬ武力紛争に翻弄される庶民の姿を、哀しいユーモアを交えて描き出す、傑作長篇小説。英国「インデペンデント」紙外国小説賞、スペイン・トゥスケツ小説賞受賞作。
著者等紹介
ロセーロ,エベリオ[ロセーロ,エベリオ][Rosero,Evelio]
1958年コロンビア・ボゴタ生まれの作家・詩人・ジャーナリスト。ポスト“ラテンアメリカ・ブーム”世代を担う小説家のひとり。コロンビアおよびメキシコで数々の文学賞を受賞しているが、2006年に『顔のない軍隊』でスペイン・トゥスケツ小説賞を受賞、「エル・パイス」、「ラ・バングアルディア」、「エル・ウニベルサル」、「エル・ペリオディコ」といったスペインの有力紙がこぞって絶賛したことをきっかけに、広くヨーロッパでその存在を知られるようになる
八重樫克彦[ヤエガシカツヒコ]
1968年岩手県生まれ。ラテン音楽との出会いをきっかけに、長年、中南米やスペインで暮らし、語学・音楽・文学などを学ぶ。現在は翻訳業に従事
八重樫由貴子[ヤエガシユキコ]
1967年奈良県生まれ。横浜国立大学教育学部卒。12年間の教員生活を経て、夫・克彦とともに翻訳業に従事(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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三柴ゆよし
24
エロじじいの一人語りを借りた歯切れのいい文体に、これはただものではないと思い読み進めていたら、やはりただものではなかった。どこにでもある村の日常が内乱により侵食されてゆく様子を描いた小説だが、そのタイトルがあらわしているように、村を襲撃するいくつもの軍隊には、思想はおろか一片の人間性すら与えられておらず、ひたすら無気味。特に19章以降、クライマックスともいうべき虐殺シーンは、リアリズムの壁を突き抜けたある種の幻想性すら帯びており、思わず身震いした。フアン・ルルフォやフリオ・リャマサーレスを髣髴させる傑作。2012/05/26
きゅー
20
好色な爺さんが登場し、陽気な作品だなあ、なんて呑気なことを思っていたら後悔した。登場人物がひと通り出揃った辺りから雲行きが怪しくなり、「それではそろそろ殺っちゃいましょうか」的なノリで殺戮が始まる。コロンビアの作家が、実話をおりまぜて書いたというからその描写も凄い。殺戮が激しくなるにつれて、主人公は彼岸へと赴いているような様子になり、物語冒頭での好色爺然との対比がすさまじい。しかしそうしたおぞましい場面の端々に、なにか乾いた笑いがはりついており、それがまた余計にこの物語を恐ろしいものとしていた。2012/06/04
鷹図
15
語り手は70歳を越える老人イスマエル。隣家の若い夫人の肢体を覗き見るのが日課のスケベジジイだが、元教師(村人のほとんどが元教え子)ということもあり、周囲からはそれなりに尊敬されてもいる。この老人ののんびりとして、かつウイットに富んだ語りを借りて、村を取り巻くのっぴきならない内乱状態が次第に明らかとなるが、そんな目と耳を疑う恐るべき事態を、諧謔を交えて語る語り口に引き込まれる。ポスト・ラテアメ文学の担い手ということだが、確かに有象無象の量産型マルケスたちとは一線を画す書き手だと思った。文句なしの大傑作。2012/03/13
Porco
13
コロンビアの内戦を小説に昇華して描いた作品。2020/03/30
ヘラジカ
9
得体の知れない不条理な暴力に取り巻かれた住民たち、なすすべもなく破壊されていく日常が、一人の老人の視点から描かれている。当事者でありながら、極度の緊張と倦怠が感情を押しつぶし、無感動に破滅を受け入れる老教師。村は変貌し、人々の希望は枯れ、それと共に自らの内面も乾きひび割れて行く。疾走する姿の見えない暴力を静かに傍観し翻弄されていく村民たちの姿は凄まじいの一言である。小さな僻村が舞台となっているのにも関わらず、まるで世界の終末を描いているかのような力強さを感じる。剥き出しで瑞々しいエロティックな冒頭と表裏2013/11/29