内容説明
１９６１年５月、ドミニカ共和国。３１年に及ぶ圧政を敷いた稀代の独裁者、トゥルヒーリョの身に迫る暗殺計画。恐怖政治時代からその瞬間に至るまで、さらにその後の混乱する共和国の姿を、待ち伏せる暗殺者たち、トゥルヒーリョの腹心ら、排除された元腹心の娘、そしてトゥルヒーリョ自身など、さまざまな視点から複眼的に描き出す、圧倒的な大長篇小説。
著者等紹介
バルガス＝リョサ，マリオ［バルガスリョサ，マリオ］［Ｖａｒｇａｓ Ｌｌｏｓａ，Ｍａｒｉｏ］
１９３６年ペルー生まれ。ラテンアメリカ文学を代表する小説家。２０１０年ノーベル文学賞受賞
八重樫克彦［ヤエガシカツヒコ］
１９６８年岩手県生まれ。ラテン音楽との出会いをきっかけに、長年、中南米やスペインで暮らし、語学・音楽・文学などを学ぶ。現在は翻訳業に従事
八重樫由貴子［ヤエガシユキコ］
１９６７年奈良県生まれ。横浜国立大学教育学部卒。１２年間の教員生活を経て、夫・克彦とともに翻訳業に従事（本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです）
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感想・レビュー
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ヴェネツィア
176
まだ未読の作品も残しているが、少なくてもこれまでに読んだ中ではリョサ最良の小説と評価できる。彼の様々な小説的試みがここに結実しているのだ。物語に同時に２つののステージを用意することは、これまでにも度々試みられてきた。ここではそれが３つであり、さらにはそれぞれの物語が過去を内包しており、小説の持つ時間の重層性と空間の膨らみとは尋常ではない。また、ある面ではドキュメンタリーでありつつ、それをも包み込むメタ・フィクションの世界がここにはある。「今」、語り出されるウラニアの失われた３５年の物語はことに秀逸だ。2014/08/14
buchipanda3
111
まさに狂宴の物語。中米、ドミニカ共和国で実際にあった独裁体制が崩壊する様が描かれており、読むうちに容赦なくその宴へと引きずり込まれた。中心にはチボ（雄山羊）と称されたトゥルヒーリョ。彼に心酔、隷属する者、恐れ憎悪する者、惑う者、巻き込まれた者、その者らの替え難い運命の瞬間が著者らしい技法で時間を彷徨うが如く描かれ、錯綜の中、浮かび上がる各々の人間性をまざまざと目撃する。そこには短絡的な偏りはなく、ただ人間そのものが描かれる。その潔さがリアルさに繋がり、歴史の出来事の真の一面を見せたドラマだと強く感じた。2022/12/21
NAO
67
３０年以上にわたってドミニカ共和国を支配し、自身に対する個人崇拝を徹底させ、著しい抑圧・虐殺を繰り返し、国家の富をほしいままにしたことで知られる独裁者ラファエル・レオニダス・トゥルヒーリョ・モリナの独裁ぶりを描いた歴史小説。この作品では、トゥルヒーリョ暗殺当日のトゥールヒーリョの１日、殺害実行者たちが暗殺現場に陣取ってから暗殺以後の逮捕・拷問に至る過程、それから３５年後、トゥルヒーリョの心酔者だった上院議員の娘が当時を回顧するシーン、の３つの場面が交互に描かれている。貧しい国には独裁者が生まれ易く⇒2022/03/10
田中
40
「チボ」とは好色漢でもある独裁者のあだ名。暗殺されるまでの３０年以上の治世は、まさに暴君の狂った宴だった。配下の功名心を煽り、都合良く操る術は、悪魔のずる賢さだ。総統、大元帥、国家再建の父、等々と礼賛され、法を超越した神のような絶対権力者と、側近者、暗殺者の複数の視点が重層構造をなして、独裁国家の闇を描く。米国からは、反共の砦とみなされる「ドミニカ」の地政学的な歴史や民族性も知ることができた。国の民主化が進み、暗殺実行者が後に英雄あつかいされたのは、鬱屈していた大衆の素顔が現れる。リョサ最高傑作の一冊。 2022/08/24
zirou1984
39
リョサというのはつくづく誠実な作家だなと思う。ドミニカ共和国において30年もの独裁体制を築いたトゥルヒーリョとその暗殺犯、そして35年後の人物という多層的な語り手によって事実と虚構を重ね合わせ、人物の相関はパズルのようにゆっくりと解き合わされる。物語の構造は秩序的と思いきやある地点から崩れ去ってしまうのだが、それは圧政時から混乱への移行と見事に照応している。歴史は悲劇を背負いながらも前進していくものであり、それは個人の人生においても同じなのだと、痛みを背負いながらも続いていくものだと伝えてくれる傑作長編。2018/01/18
